第42章 【番外編】過去との決別
「あ、天元くん!こんにちは!」
「この状況でよく普通に挨拶できんな!お前!」
思わず肩の力が抜けた。
天承にまさかあとを付けられていてほの花のことを知られているとは思わなかった。
ここ最近、ほの花のことをぼんやりと考えることが多くてうっかり尾行を許してしまったのだろう。
ほの花の背中にクナイを突きつける天承は本気だ。少しでもほの花が動けば攻撃をするに決まっている。
それなのにこんな緊迫した状況でもほの花の緩さは変わらない。
ふわりと羽が生えたように掴みどころのないその雰囲気に少なからず天承も動揺しているように見える。
心臓の動きが落ち着かない様子が見て取れる。
年下とは言え、厳しい訓練を受けてきた忍二人を相手に此処まで揺さぶりをかけられるほの花は大したものだ。
戦えるとは言っていたが本当はめちゃくちゃ強かったのか?
それか死線を潜り抜けてきたことで肝が据わっているのか?
この二択ならば後者だとは思うが、殺されるかもしれない状況であっけらかんとするのはやめてほしい。
幾つ心臓があってもたりやしない。
恐らく天元というほの花の恋人はいつもこんな感情を味わっているのだろう。
だけど、花のように笑い、優しく天真爛漫。こうやって放っておけない彼女を愛おしく思い、妻に迎えたいと思う気持ちは分からなくもない。
ほの花が家にいれば飽きることはないだろうし、いつも笑いの絶えない生活が待っていることだろう。
「…天承、いいから武器をほの花に向けんのはやめろ。そいつは間者ではねぇよ。分かるだろ。」
「……ならば何故此処に匿うんだ。」
「…恋人が迎えに来るまで家を提供してやっただけだ。女一人でこんなところにいて助けてやったのに獣に襲われて死んだなんて寝覚めが悪ぃだろうが。」
本来の状況とは若干違うが、ゆくゆく何処かで待っている恋人の元に戻るのだから強ち嘘八百というわけではない。
ほの花も動揺することなく、心臓の音は安定しているところを見るにこの言い訳に乗ってくれるつもりなのだろう。