第42章 【番外編】過去との決別
此処に来て早二週間。
そろそろ本当に天元が恋しい。
毎日天元くんは変わらず来てくれるけど、やはり今の天元に会いたいと思ってしまうのは、彼が私のことを知ってくれているからだ。
「いつになったら…会えるのかな…天元。」
外で木漏れ日を浴びながらそう呟くと音もなく背中に刃物の感覚を感じた。そして後頭部で受け取るのは聴き覚えのある声だった。
「お前が兄貴を誑かしてる女か。何が目的だ。」
忍と言うのは本当に気配を隠すのが上手い。
天元と一つ屋根の下に暮らしていても、彼の気配を探るのは至難の業。足音をわざと立ててくれている時は気付くけど、大抵は急に後ろにいたりとか驚かされたりすることばかり。
そして、後ろにいる人物も然り。
此処に飛ばされる前もそうだった。
「……どなたですか?」
「質問に答えろ。目的は何だ。」
背中に食い込むのはクナイだろうか。
尖った先端は容赦なく背中に痛みを感じる。
其処には少しの迷いも感じられない。恐らく私が少しでも変な真似をしたら殺すつもりだ。
「……兄貴って?」
「しらばっくれるな!先ほど名を呼んでいたではないか。」
「天元のこと?それは私の恋人の名前よ。」
「…何?!では、何故此処に兄貴がお前に会いに来ているのか理由を言え!俺は見たんだ!」
天元くんが彼に隙を見せるとは思えないけど、何か考え事でもしていたのだろうか。
嘘を言っているようにも見えないし、それは事実なのだろう。
「ああ…天元くんのことね。恋人と同じ名前なの。行く場所のない私を此処に置いてくれてる優しい子なの。あなたのお兄さんなの?」
本当は知ってる。
でも、此処は知らないふりをしなければいけない。
私は何も知らない。
関わってはいけない。
会うはずのなかった人間なのだから。
「……天元くんを誑かしたりなんてしてないよ。良くしてもらってるのは本当だけど、それは彼の優しさだよ。」
「兄貴には許嫁がいる。お前にも恋人がいるならば不義は許されんぞ。」
不義は働いていないが、彼からしたらそう感じるのも無理はない。
それは十分わかっているが、どうしたら分かってもらえるのか答えが出ずに二の句が告げずにいた時、彼の更に後ろからもう一人の声が聴こえた。
「天承、その手を離せ。」
いつもの優しい彼ではない。
男の声をした天元くんだった。