第42章 【番外編】過去との決別
「…天元も強かったし…彼の同僚の方も強かったから誰も死ぬことなくみんなで未来に歩んでいけると思ってたの。…でも、そんな甘いものじゃなかった。」
死とは皆平等に訪れるものだ。
しかし、ほの花が言っているものは他人に奪われたことを意味している。
「…敵が…強かったってことか。」
「うん…。途方もないくらい強かった。」
ほの花の柔らかな髪が風に靡くと花の匂いが香る。哀愁漂う表情と相俟って不謹慎だが凄く美しい。
「だけどね…、死んだ人は…元には戻らない。どんなに願っても人は生き返らない。」
「まぁ、そうだよな。」
「きっとね…天元くんにもどうにもならない別れがこれから起こることがあると思うの。」
「……?あー、まぁ…そう、かもしれないな。」
起こるか起こらないかはわからない。
そんなことは神のみぞ知ること。
ほの花は一般論で言っているのだろうが、その言葉は意外にも真剣で真っ直ぐに俺を見据えている。
「たとえ…ツラくて苦しいことが起きても、生きることを諦めないでね。未来は変えられる。自分次第で。」
「生きることを、諦めない…?」
そんなことは当たり前のことだ。
生きることを諦めたら死ぬと言うこと。
死にたくなるほどつらいことが起きても耐えろと言っているのだろうか。
ほの花の顔は真剣そのもの。
馬鹿にするでも、揶揄うでもない。
その表情で俺はゴクリと生唾を飲んだ。
「天元くんは優しいからきっと悲しみや絶望に飲まれてしまうことがあると思うの。選んだ道はつらく苦しいものかもしれない。悪辣な人間に嫌気が差すこともあるかもしれない。それでも…生きてね。生きたその先に見えるものが必ずあるから。」
「……わかった。」
いろいろ聞きたいことが山ほどあった。
何故そんなことを聞くのか?
一体何のことを示唆しているのか?
──ほの花、お前は一体何者なんだ?
聞きたいことはたくさんあるのにほの花の表情がそれを許さなかった。
哀しそうに笑うその姿が聞くことを憚られた。
少しだけ餓鬼扱いされたような気にもなって面白くない気分にもなったからと言うのもあるが、悲しみを乗り越えた先に"天元"と言う男との結婚があったのだと見せつけられたような気になって少し悔しかったから。