第42章 【番外編】過去との決別
天元くんが買って来てくれたのは美味しそうな豆大福が三つ。
もちろん彼は私の好物なんて知らないはず。
それなのに照れ臭そうに渡してくれる袋の中にそれが入っていた時、嬉しくてたまらなかった。
私の好きなものを知らないのに当ててくれたことに勝手に嬉しくなってしまったのだ。
「ありがとう…!食べてもいい?」
「ああ。ごめんな、三つも食べられねぇか?」
しかし、申し訳なさそうに個数が多いかと気にする天元くんに今度は苦笑いが出てしまった。
(…そりゃ、そうか。そんなことまでわからないよね。)
何を隠そう。私は大の甘味好き。
豆大福ならば三十個は余裕でペロリだ。
でも、そんなこと言おうものなら次から本気で三十個買って来そうだ。
今の天元なら『甘味食い過ぎ』と苦言を呈されて途中で取り上げられると思うが、今の天元くんは私の普段のことなど分かるわけがない。
「全然!ちょうどいいくらい!」
「そうか?それならよかった。」
きっと彼の中では私は大食らいには見えていないと言うこと。
それはそれで品よく映っているならば言うことは無い。
「甘味…好きなのか?」
「うん!大好き!!よく食べに行ってた!」
「…旦那と…?」
「え?うん。あ、でも…、友達とも!よく行ってたよ。」
天元くんは今の天元のことをよく聞いてくる。
名前が同じだから気になるのかもしれない。
ただ誰と甘味を食べに行くかと問われてすぐに思い浮かんだのは雛ちゃんとまきをちゃんと須磨ちゃんだ。
そういえば、今は彼にとってどんな状況なのだろうか?
それは知っておいた方がいい気がした。
不用意な発言は彼の未来を変えてしまう可能性がある。
「天元くんは…、えと…、恋仲の子とかいないの?」
しかし、そう聞いてみると少しだけ目を見開いて、『あー…』と言いにくそうに口を濁した。
年頃の少年だ。
恋の話など恥ずかしいのかもしれない。
うっかり聞いてしまったが、私はそういう気遣いとやらが分からないので失言だったかもしれない。
「あの、言いにくいことなら大丈夫だよ。」
逃げ道を作ってあげないとと思ったのに、そうやって言えば、首を振って此方を真っ直ぐに見た。