第42章 【番外編】過去との決別
此処に来てもう三日が経った。
少年天元くんは毎日必ず此処に来てくれて、食べ物を差し入れしてくれる。
おにぎりのことが多いけど、魚を獲ってきてくれて一緒に焼いて食べたりもした。
いつも温かいおにぎりは不恰好で物凄く大きい。
塩加減もしょっぱい時もあれば薄い時もある。
誰が握って持ってきてくれてるのか一目瞭然でその度にほっこりと心が温かくなった。
見ず知らずの女におにぎりを握ってくれる優しさを見てしまうと、やはり宇髄家のやり方は彼には合わないのだろうと簡単に想像がついた。
(…やっぱり、結婚の許しを得たいだなんて…余計なお世話だったかな…)
天元の過去も知りたい。
ご家族に会ってみたいと思ってしまった私のわがままは、天元にとっては地獄だっただろう。
元に戻れたら謝りたい。
謝って今までよりももっともっと彼を大切にしよう。
家族の分まで私が天元の家族になって、愛したい。そんな決意に満ち溢れていた。
「何してんの?拳握りしめて。」
「え…?あ!天元くん!こんにちは!」
いつのまにか気合を入れるかのように両手を握りしめていた私のところに音もなく現れたのは少年天元くん。
あどけなさが残る天元くんだけど、やはり一緒にいられると嬉しいと感じてしまうのは、天元のことを愛してるからだと思う。
「何かあった?大丈夫か?」
ほら、こうやってすぐ心配してくれるところも今の天元とそっくりなんだ。
だから自然と私も笑顔になってしまう。
「大丈夫!ありがとう。ちょっと元に戻れた時のための予行演習してた。えへへ。」
「…そんなモンの予行演習してどうすんだよ。」
「あはは…だよねー。」
言い訳にしては苦しいけど、笑って誤魔化せと笑顔を向けると『…ん。』とぶっきらぼうに紙袋を渡された。
おにぎりかと思ったがいつもは経木包みなので、外装自体が違うそれに首を傾げながら受け取ると、ふわっと甘い匂いがした。
「…今日、は…さ、帰る時間がなかったからよ。」
ポリポリと頬を掻くとそっぽを向いてしまったけど、『開けていい?』と聞けばチラッとこちらを向いて頷いてくれる。
それを確認してから紙袋を開けると其処には大好きな豆大福が入っていた。