第42章 【番外編】過去との決別
一触即発。
そう言って間違いないだろう。
弟妹を殺したことを何とも思っていない天承と話しても何の実りもない。
だから敢えて話したことはない。
こんな風に言い合いをしたことすらもう遠い昔のこと。
涼しい顔をしている天承と比べてオレは怒りで体が震える始末。
これが精神が弱い証拠だと言われれば、もうそれで良い。
人の死を悲しめない人間になるくらいならば、精神虚弱と蔑まれようと構わない。
頭の中で考えていたことなのにそう思って瞬間、オレは笑いが込み上げた。
「ハハッ…、ハハハ…。」
「……気でも狂ったか。」
「いや?ほの花のことを虚弱だと罵ったな?だとしたら俺も人の死を悲しむ精神的虚弱だ。お似合いだろ?俺たち。」
別にそこまで精神的に脆くはねぇけど、コイツからすれば"人の死を気にしない"こそが強者。
俺はそこに値しない。
「…馬鹿な女に引っかかって気でも触れたか。名折れもいいとこだ。」
「何とでも言え。…だが、万が一…ほの花の意識が戻らなければ本気で殺す。心配すんな。強い宇髄天元を見せてやるよ。」
「………。」
それ以上、天承は何も言ってこなかった。
アイツも馬鹿ではない。
忍としては有能だが、俺は鬼殺隊として揉むに揉まれてきた。
元音柱は伊達じゃねぇ。
それになるだけの努力はしてきたし、引退しても尚、コイツよりは強い自信があった。
天承もそれを感じ取っていたのだろう。
少しも反論することなく、部屋を出て行った。
まぁ、宣戦布告したせいで寝首を掻かれる危険性も増えたが、そんなものは慣れている。
部屋の中に誰かが入ってこれば気配でわかる。
全集中・常中さえしていれば、アイツに殺されることはない。
ほの花を守りながらド派手に返り討ちにしてやる。
それよりも問題はほの花だ。
どうやら里は閑散としていて、昔の賑わいはない。
医師も薬師も呼ぶには此処を出て行かないといけないし、天承は応じてくれないだろう。
見守ることしかできないことに苛立ちを隠せないが、それでも信じることしかできない。
アイツは二度、目を覚ました。
今度も必ず目を覚ますはずだ。
「…早く、戻ってこい。ほの花。」
俺の声はポツンと部屋の中に響いた。