第42章 【番外編】過去との決別
そういえばこんなことは初めてじゃない。
あの時は…3日目だかそれくらいで目が覚めて「おはよ〜!」と呑気に挨拶されたのは記憶に新しい。
初めてではないということが少しだけ俺の呼吸をしやすくしてくれる。
体も温かい。
息もしてる。
でも、動かないほの花は本当に人形のようだ。
ただでさえ西洋人形のような容姿で、喋らなければ日本語が喋れるなんて思えない。
ただころころと変わる表情はほの花の天真爛漫さを示すように可愛らしい。
俺はそんなほの花の笑顔が凄く好きだった。
一番最初に出会った時は血色ない真っ青な顔だったけど、だんだんと心を許してくれて満面の笑みを見た時は柄にもなく心が躍ったのを覚えている。
「…早く、目ぇ覚ませって…。こんなところでお前が居なけりゃ来た意味ねぇっつーの。」
こんなところと言ってしまえるほど、この地への嫌悪感は強い。
だけど他でもないほの花の頼みでなければ来ることもなかった。
因縁の地へ再び出向くことは嫌だった。
それでも此処まで来れたのもほの花がワクワクと胸を躍らせていたから。
道中、花が咲くような満面の笑みを浮かべて手を握って歩いてきたから。
"遠い散歩"だ、と自分に言い聞かせていたにすぎない。
それなのに天承と揉み合いの末、頭ぶつけて意識が戻らないなんてほの花のご家族が知ったら……
「…やべェ、つーか。泰君さんに殺されるんじゃねぇの、俺…。」
万が一、このまま意識戻らないなんてことがあれば本気で陰陽師の里に出向いて、一ヶ月間くらい飲まず食わずで土下座するしかない。
まぁ、俺も死ぬだろうけど。
そんなことより今はほの花が目を覚ますかどうかが大事だ。
俺が再びほの花に向き合って時、「食事を持ってきた」と天承が入ってきた。
「何だ、まだ寝てるのかをその女は。だらしない女だ。」
「はぁ?!テメェのせいだろうが!!昨日から一回も目が覚めねぇんだよ!ほの花にもしものことがあったら…弟だろうが…ぶっ殺す…!」
「ハッ、今更なんだ?昔、実の弟や妹を殺したことあるくせに。」
それは俺の一番思い出したくないこと。
一番の汚点だった。