第42章 【番外編】過去との決別
「……どうやら女にうつつ抜かして腑抜けになったようだな。」
「へーへー。わかんねぇなら一生此処にいればいい。とりあえず俺はコイツを寝かせてくるからよ。」
「…待て!まだ話は…!」
「言っておくけど、俺はお前のこと怒ってんだからな。俺の女を傷つけやがって。コイツに申し訳ないって気持ちも持てねぇお前が心底理解できねぇよ。」
実の弟だとしても、ほの花を傷つけて気を失わせたくせに全く悪びれもしないところは理解できない。
すやすやと寝息を立てているほの花に安堵の息を吐くけど、俺はコイツの呼吸が止まった瞬間を見ている。
心臓も止まったところに立ち会っている。
あんな思いをすることは二度と御免だ。
だけど、天承も父親である玄信も拘るのは宇髄家というところだけ。
ほの花は確かに今、体は弱い。
だが、それは少しずつだが改善しているし、前なんて起きてる時間のが少なかったくらいなのにこうやって出歩けるようになった。
まだ時間はかかるかもしれないが、それでも着実に治ってきているというのに、過程を知らない奴らにほの花のことを一言で"虚弱"と済まされて、嫁失格みたいに言われたことは腹が立って仕方ない。
何を知ってる?
コイツがどれほど思い悩み、苦難を乗り越えてきたか。
生死を彷徨って戻ってきた時、どれほど俺が嬉しかったか。
そんなことも理解することができない自分の家族に腹が立つし、情けなく感じた。
俺は天承が制止するも振り返ることなく部屋に帰っていく。
ほの花を寝かせてやって、目が覚めるのを待とうと呑気に思っていたのに、おかしいと感じたのは翌朝だった。
布団に寝かせてやったほの花は微動だにせずに眠ったまま。
息はしているのだが、話しかけても、肩を揺らしても少しも反応がないのだ。
「…おい、ほの花!しっかりしろ…!起きろって…!」
何度も何度もそうやって話しかけているのにほの花は穏やかな顔をして寝息を立てている。
息をしているのに
俺は怖くて怖くてたまらなかった。