第42章 【番外編】過去との決別
理解できない
何を考えているのだ
天承の目がそう訴えている。
理解できないのも分からなくはない。
俺だってほの花と出会うまでは当たり前のように充てがわれた嫁三人と人生を全うするつもりだった。
あの三人のことも大切だ。大切な家族に変わりない。
だけど、生まれて初めて自らが欲した女はほの花が初めてのこと。
あまりに初めてのことばかりで暴走して、嫉妬して傷つけたこともある。
溺愛しすぎて柱として周りに危ぶまれたことだってある。
それでもひとつだけ全力で言えることは、全身全霊でほの花を愛していると言うことだ。
「…可哀想、だと?この俺が…?」
「どう考えても可哀想だぜ?一生、俺の気持ちもわかんねぇまま死んでくんだろうな。俺は悪いが愛する女と添い遂げる。悪く思うなよ。」
「子も成せない、虚弱の女を娶ることが正解だとでも言いたげだな。」
「俺はこいつがいてくれるならそれでいい。はっきり言う。宇髄家ということに拘るな。もう忍は必要とされていない。目を覚ませ。」
──江戸時代
あの頃、宇髄家は栄華を極めていた。
忍として名門だと思われていただろう。
だが今は明治も終わり、大正。
既に忍は必要とされなくなり、周りは西洋のものも溢れかえっている。
日本は変わろうとしている。
いつまでも宇髄家に固執しているのはコイツらだけだ。
二度と会うつもりはなかった。
俺の中ではもう終わった話。
ほの花が結婚の挨拶に来たいと言わなければ再びこの家の敷居を跨ぐことになるなんて思いもしなかった。
「……貴様、無責任に里を抜けただけでは飽き足らず、宇髄家を愚弄する気か。」
「愚弄?ちげぇな。事実を言ったまでだ。お前はまだ若い。今からでも真っ当に生きることはできる。」
「ふ、…ざけるな!!!今まで培ってきたものを捨てろというのか?!先祖に申し訳ないと思わないのか!?この不届きものめ!!」
「…こんなところで地味に暮らす必要ねぇってことだ。いいか?頑なに忍に拘っても意味はない。
拘らなくてもこの血は受け継がれていく。宇髄家は無くならない。命を繋いでいく限りな。」
そうだ。
強い忍はもう必要ない。
だけど、宇髄家が滅びるわけではない。
形を変えてこれからも生き続けるだけだ。