第42章 【番外編】過去との決別
「…ちげぇよ。記憶を操作されたんじゃねぇ。」
「そんな筈はない。あの女にハッタリで怪しい薬でも使って懐柔したのかと問えば、目を逸らした。違うならば否定すれば良いだろう。」
天承の言葉は尤もだ。
でも、ほの花もまた悔いる過去がある。
それは俺が自分の過去を悔いているように。
たまたま天承にそこを突かれた。
確かに否定すれば良かっただろうが、アイツにとってそれは悔いる過去。
俺や周りの人間が許していたとしても、ふとした時に思い出したりすることもあるだろう。
否定しようにも素直なアイツが咄嗟に言い淀むのは仕方のないこと。
「…記憶を無くしていたのは本当だ。だが、だいぶ前に取り戻した。それに記憶を無くす随分前から俺はコイツと恋仲だった。」
「……何の取り柄もない女を嫁にした理由を言え。嫁として宇髄家の役にも立たない愚図を選んだ理由を。」
「はぁ?!お前は馬鹿なのか?ンなもん、愛してるからに決まってんだろうが!!」
理由なんてモンはない。
ただほの花を好きだから。
愛してるから。
そばにいたいから。
嫁選びに宇髄家の繁栄のことしか頭にない宇髄家の考え方が嫌いだった。
雛鶴もまきをも須磨ももちろん大切な存在だ。
だけど、そんなどうでもいい理由で選ばれたことにずっと申し訳なさを感じていた。
だからこそ今、アイツらが本当に好きな男の元に嫁げたのは喜ばしいことだし、これで良かったと思ってる。
ほの花の体が弱かろうが強かろうが関係ない。
子が産めようが産めまいが関係ない。
俺が選んだのはほの花で、俺が欲しいのはほの花なのだ。
「そんなくだらない理由で嫁を選んだのか?それでも宇髄家の長男か。」
あの父親にそっくりな天承のことをずっと疎ましく思ってきた。
この二人みたいになりたくなくて、里を抜けた。
宇髄家の長男としてあるまじき行為だと分かっている。
それでも今俺は心から抜けて良かったと胸を張って言える。
何故なら…
「お前、可哀想な奴だな。好きな女を嫁にする喜びも感じることもできないなんて。」
「!!…なんだと…?くだらない。」
「命懸けで愛してくれるほの花みたいな女がお前にもいれば…少しは分かったかもな。俺の気持ちが。」
俺は愛し愛される喜びを知ったから。