第42章 【番外編】過去との決別
「っ!!ほの花!!!」
ドゴッという鈍い音が聴こえてきたかと思うと、ずるずる…とほの花の体が力無く前のめりに倒れて行くと前にいた天承が受け止めた。
「っ、触んな!!」
ほの花の体をやむなく受け止めてくれたのはわかってる。
でも、誰にも触られたくなかった。
俺の女を他の男に触れられるなんて身の毛がよだつほどに腹が立って仕方ない。
それが実の弟だとしても。
俺の声にこちらを向いた天承の腕からほの花を奪い取るとその場に座り、顔に手を添えた。
「ほの花…!おい、ほの花…しっかりしろ。大丈夫か?」
息はしている。
でも、意識は完全にない。
壁に押し付けられた時に頭を打ち付けたのか?
ただの脳震盪ならばいいが、無理が効かない体のほの花は少し風邪を引いただけでも長引く。
この前、風邪を引いたら地味に二週間も寝込んだ。ただの脳震盪であっても、継子時代のほの花であれば受け身をとれただろうし、あの遊郭での戦い以降体が鈍っているのは明白だ。
「…戦うどころか、少し体を押しただけで意識を失うなんざ弱すぎるぞ。そんな女のどこが良い。あまりに選択を間違えたんじゃないのか?」
「まずは…謝れよ。ほの花がお前に手を出したのか?ちげぇだろ。強かろうが弱かろうが男が女に手を出せば力の差は歴然だろうが。」
「里のくのいちであれば意識を失うなんてことはない。あんたの見る目の無さに反吐が出るな。」
冷たい視線で意識のないほの花を見下ろしている天承に奥歯を噛み締めると、そのまま彼女の体を抱えて立ち上がる。
「…コイツの良さをお前に分かってもらおうなんて思っちゃァいねぇよ。むしろ分かられてたまるか。」
ほの花がどれほど暖かく、優しい人間か。
そばにいるだけで安らげる不思議な魅力がある女か。
分かられてたまるか。
俺だけが知っていればいい。
「…先ほどこの女から聞いた。あんたは薬で記憶を操作されているんだ。目を覚ませ。」
それなのに、天承の言葉に俺は眉間に皺を寄せた。
誤解なのは分かってる。
だけど、偶然の一致で恐らくほの花はあの時のことを思い出して、天承に付け入る隙を与えてしまったのだろう。