第42章 【番外編】過去との決別
「此処だ。」
そう言って少年天元くんに連れてこられたのは廃屋。お世辞にも綺麗とは言い難いが、お金もないのに贅沢は言えない。
雨風を凌げるだけでも有り難い。
住めば都。とにかく帰る方法を見つけなければ…。それが一番の優先事項だ。
「ありがとう!!此処、使っても良いの?」
「ああ。誰も使ってねぇからよ。好きにして良い。…女が住むにしては汚ねぇけど。」
「いやいや、いいの!むしろありがとう。宿代も無くて野垂れ死ぬところだったよ…!本当にありがとう。天元くんのおかげ。」
「…別に、これくらい良いけどさ。」
やっぱり大きくても小さくても天元だ。
どことなく優しさが滲み出ている。
彼は昔の話をしたがらないけど、納得のできない環境に身を置きながらも天元の性根は変わらないはず。
元々彼は優しい性格だったんだ。
ぶっきらぼうな物言いも変わらないけど、そこにはブレない暖かさを感じる。
「あの先に川もあるし、顔洗ったりする分には困らないと思うぜ。」
「うん!ありがとう!野宿慣れてるから平気だよ!」
自慢じゃないが、正宗達と全国津々浦々野宿しながら旅をしていたのだ。
虫は怖いけど、不便な生活には慣れている。
「…ほの花って…意外なとこ多いのな。普通女って野宿とか嫌じゃねぇの?」
「どうだろう?他の人のことは分からないけど、私は平気だよ。ほら、天元くん!もうそろそろ行かないとじゃないの?ごめんね?手間かけてしまって…」
鍛錬の途中だったと言っていた少年天元くん。
此処に連れてきてくれたのは彼の善意だ。
本来ならば放っておくこともできたのにそれをしなかった。
「暫く貸してもらうね?早いところ元に戻る方法見つけて出て行くからそれまで御厄介になります。」
「別に…、焦んなくていいぜ?此処はどうせ使ってないから。じゃあ、行くわ。また来るから。」
ほら、やっぱりあなたは昔から優しかったんだね。人のことを放っておけなくて、情に熱い人だったんだ。
過去を悔いることは悪いことばかりではない。
でも、悔いたことで忘れてしまってることもあるよ。
(…天元はいつだって…人を想ってる)