第42章 【番外編】過去との決別
やっぱり旦那…いや、正確には婚約者なのか。
背中におぶっているほの花と言う女。
会ったばかりの女に婚約者がいようとそんなことは知ったことではない…
……筈なのに、何故か苛立ってしまう。
「ふふ、だから私は"天元"って名前の人に助けてもらってばかりだね。おぶってくれてありがとう。」
後ろから小鳥の囀りのようにニコニコしてると言うことが分かるような声色でほの花が礼を言ってくれるけど、面白くないのは変わらない。
「…まぁ、あんた…、鈍臭そうだしな。」
「えええ!そ、そんなことないよ?!天元に…!あ、えと…だ、旦那様…に鍛えてもらってたことあるけど、一般の人よりは戦えるんだよ?!」
「嘘つけ。」
どう考えても鈍そうな運動神経に虫も殺せなさそうな容姿。
戦ってる姿なんて全く想像できないと言うのにほの花は『そんなことない!』と否定をする。
「本当だよ?実は…、ちょっと戦いで無理しちゃって…。それで体が弱くなっちゃったんだけど、本来は戦えるの!筋肉はつきにくいらしいけど、身のこなしは褒められたんだから!」
疲れたら抱えてくれるというほの花の婚約者。
それだけ聞いてもほの花にベタ惚れなのだろうと言うのは分かる。
可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。
此処まで必死に言ってくるのだから戦えるのは本当かもしれないが、『褒められた』と言うのはその婚約者の邪な考えによるものな気がしてならない。
(…ほの花に笑って欲しかっただけじゃねぇの?)
花のように可憐に笑うほの花は吸い込まれるような不思議な魅力がある。
婚約者であるその男がそれに魅了されて喜ばせたくなるのも肯ける。
「はいはい。わぁーったって。強い強い。」
「ああ!ぜ、絶対信じてない!!勝負!!今から勝負ーー!!」
「暴れんなって。今のほの花と勝負しても絶対勝つからつまんねぇじゃん。」
「何をーー!!……って、…あ、な、名前…。」
「……?」
「初めて読んでくれたね…!ありがとう。嬉しい!」
ドクン──
ほの花に笑ってほしかっただけだろ?
チラッと後ろを振り向いた瞬間に飛び込んできた笑顔に俺の心臓は早鐘する。
(…何なんだよ…、これは…。)