第42章 【番外編】過去との決別
「疲れたらいつも休憩すんの?二十分くらいなら散歩程度だろ?」
少年天元くんが前を見たままそんなことをきいてきた。
彼の背中は天元よりは大きくないけど、匂いは天元と同じ。やっぱりこの人は天元なんだと思わせられる。
「あ…そう、なんだけど…いつもそれすら疲れちゃって…たまに抱えてもらっちゃう…かな。」
「……誰に?」
「え?」
「……だ、だから…!誰に抱えてもらってんの?って聞いてんの!」
何故かちょっとだけ苛ついた様子の少年天元くんに首を傾げる。前を向いているため表情は窺い知れないが、耳は少しだけ赤い。
しかし、ただでさえ何だか苛つかせているようだし、話をややこしくしないように彼の質問に答える。
「ほら、天元くんと同じ名前の天元って人だよ。心配性だからいつもお散歩も一緒についてきてくれるんだ。」
「…ふーん…。……旦那?」
「だ、だ、だ、旦那…!!!」
しかし、少年天元くんの言葉に今度は私の方が体全体が熱くなってしまう。
今までだって関係性は変化してきた。
師匠から恋人になり、婚約者と呼んでもらったのに私の自分勝手な考えで忘れ薬を飲ませて再び師匠になり、記憶が戻ってから再び恋人になった。
よく考えたら私と天元の関係性は僅か一年半くらいで目まぐるしく変わり、そして今、再び関係性が変わろうとしている。
「…?何だよ。違うのか?」
「え、えと……!た、多分…そう…、かな。まだ結婚はして、なくて…結婚の挨拶に天元のお家に来ていたところで此処に飛ばされちゃったみたいで…」
「………ふーん。」
聞いてきたのは少年天元くんなのに、やはりどこか不満そうな声色に益々首を傾げるが、そう言えば此処に飛ばされたことでうっかり忘れていたが天承さんのことを怒らせてしまったんだった。
何なら恐らくあの時、頭を打ち付けたことが引き金となって私はこの世界に来てしまったのだ。
此処にも少年天承さんはいるだろうと思うけど、とてもじゃないけど会う勇気はない。
それに未来の少年天元くんの嫁ですだなんて信じてもらえるわけがないし、それは絶対に言ったら駄目だ。
未来のことを伝えてしまえば、未来が変わってしまうかもしれない。
天元との関係性が…全く別のものになってしまうかもしれない。
それだけはどうしても避けたかった。