第9章 『実家に帰らせて頂きます』※
結局、宇髄さんが気持ち切り替えて鍛錬中は"鬼師匠"になると言っていたが、一夜を共にしてからというもの確かに彼は私にとても甘い。
あの日から夜の営みは一度もシていないが、物凄く大切に扱ってくれているのだけは伝わる。二度目はいつなんだろう…というソワソワとした気持ちがないわけではないが、こちらから誘うわけにもいかずに変な気持ちのまま過ごしていた。
そんなある日、私は町の裏手にある小高い山に薬草を探しに来ていた。
勿論ちゃんと宇髄さんに許可は取ってきたが、日が暮れる前に帰ってこいというお父さんのような心配性具合に雛鶴さん達も正宗達ももう何も言わなくなっていた。
私が探しに来ていたのはあの日、隣町まで買いに行ったが結局なかった"ぺぱーみんと"や"かもみーる"だ。
里の裏手の山には母が植えたこともあり、たくさん生えていたが此処にはどこを探してもやはりない。
西洋薬草はやはり母が異国からこの国に持ち込んで育てていた可能性が高い。
だからまだ他には流通していないのだ。
そうと分かっていればこんなに探すことはなかったし、里を出る時に持ち帰ってきたのに…。
母の作る薬は西洋薬草も混ぜていることが多かったので当面の薬には差し支えないが、やはり今後のことを考えると育てるなりして量を増やす必要がある。
それにあの時は産屋敷様の薬師としてお役に立とうだなんてこれっぽっちも思っていなかったので最低限の物しか持ってきていない。
これからもお仕えすることを考えたらやはり置いてきた母の商売道具も手元に欲しかった。
「…取りに帰るしか…ないかー…。」
だが、果たしてそれを許してくれるだろうか。
あの甘々お父さん化している宇髄さんが。
正宗達について来てもらうことが出来れば許してくれるかもしれないが、あそこに帰るのは物凄く勇気がいる。
良い思い出もあるが、最後に見たのは二度と見たくない光景でしかないから。