第42章 【番外編】過去との決別
御伽噺のような出来事を話して来たほの花のことを信じると決めた俺は里のはずれに使っていない小屋があることを思い出した。
あそこならばほの花が帰るまでの間、身を隠していてもいいだろう。
食事などの世話くらいしてやれると思うし、何より金がないんじゃ仕方ない。
町に送ってやっても宿にも泊まれやしないんじゃ意味がない。
鍛錬の途中だったこともあり、少しだけ早足で其処に向かっていると、後ろからほの花が申し訳なさそうに休憩をしたいと言って来た。
聞けば"体が弱いから疲れる"らしい。
俺の中ではほの花がついて来られるくらいの速さで歩いていたつもりだったから頭を殴られたような衝撃だった。
「乗れよ。おぶってやる。」
だから自然とそんな言葉が出た。
休憩をするのも別に構わないが、鍛錬の途中だったし、何よりも疲れていることに気づけなかったことが恥ずかしくて顔を見られたくなかったのだ。
年下の自分におぶられることに迷った様子が見受けられたが、俺が頑なに其処を退かなかったらおずおずと背中に乗って来た。
ほの花の体を背中に感じた瞬間、甘い花の匂いが鼻を掠めてまたもや心臓が跳ねた。
心地よくかかる体重は羽が生えたように軽くて、思わずちゃんと乗ってるか確認してしまったほど。
「…動くな。」
「う、うん…!ありがとう。」
「別に構わねぇよ。」
しかしながら、たかだか二十分程度の散歩で疲れてしまうほの花に日常生活は大丈夫なのかと心配になる。
それに同じ名前の"天元"とやらとはどんな関係なのかも気になる。
会話の中で何度も『天元』という名前が出てくるので、自分かと思いきや俺のことは『天元くん』と呼んできた。
何だかよく分からないが、モヤモヤする変な感覚に陥ったので考えないように空を見上げた。
余計な雑念は無用だ。
忍には必要ないことだ。
それなのに背中に感じる温かさにいつもならば気にならないことが気になって仕方なくなってしまった。
極力体に負担をかけないようにゆっくり歩きながらも後ろにいるほの花に声をかけた。