第42章 【番外編】過去との決別
「違う…世界?」
「…はい。そう、です。だ、だってね…!私、家の中にいたの…!それなのに気付いたら此処にいて…!天元もいないし…もうどうしたら良いか…」
「ちょ、ちょっと待て…。そんなお伽噺みたいな話が実際に起こるわけ……」
…"ない"と言えるだろうか。
現に俺は此処にずっといたのに、物音ひとつせずにそこに急に現れたほの花。
しかも、ここらじゃ見たこともないし、全く殺気は感じないのにほの花の存在は浮世離れしている。
その美しさも然り、話の内容も全て。
飛ばされたと言うのが事実でなければ辻褄が合わないことばかり。
「…あんた、天女じゃねぇよな?」
「て、天女…?いやいや!人間です!普通の人間!だけど…母親が異国出身だから顔がちょっと日本人離れしてて…へ、変だよね…。」
ひょっとして天女という説は濃厚なのではないかと思ったが、其処ははっきり否定して、尚且つ顔立ちが浮世離れしてるように思った答えまでご丁寧に答えてくれた。
異国人との混血ってわけか。
それならば、見かけない顔立ちの美しさも納得できる。
「…別に…変じゃねぇよ。見かけねぇ顔立ちだとは思ったが、綺麗な顔してんじゃん。自信持てよ。」
「え…!?あ、あり、がとう…」
驚いた顔をして俺を見るや否や、その顔が真っ赤に染まったほの花。
こんなに美しい顔立ちをしているのに言われ慣れてないとでも言わんばかりの反応に首を傾げるしかない。
「…まぁ、あんたに殺気は感じないし、間者ではないんだろうな。俄には信じ難いが、嘘を吐いてるように見えない。」
「ほ、本当…?」
「ああ。だから信じるよ。あんたのこと。とりあえず元の場所に帰る方法を探さないといけないってことだよな?」
「うん…!!ありがとう…。」
信じ難いことではある。
でも、何の根拠もないけど、ただほの花は信用して大丈夫だと心が言っている。
綺麗な顔を破顔させて喜ぶ目の前の女には邪気も殺気もない。
ただ純粋に"困っている"ということだけが伝わってきた。
そんなほの花を見て、何故か"助けてやりたい"と思ってしまった。
感情が溢れ出すような感覚なんて持ち合わせてなかったのに、目の前にいる女に会ってから俺の心は忙しなく総稼働していた。