第42章 【番外編】過去との決別
だが、不思議なことがある。
死んだとしたならば、体の痛みや傷とかは治してくれてもいいものを…
頭はズキズキと痛むし、先ほど掴み上げられていた腕がまだ痛い。
「…何で痛いのかな…。此処って天国?地獄…?痛いから地獄か…」
神様は意地悪だと思う。
死んだのならば痛みは取っておいてほしいし、それよりも死にたくなかった。
天元と新婚生活をしたかった。
どう見ても此処は山奥の森の中。
自分の暮らしていた里と良い勝負だ。
幸いなことに季節は秋…?暑くもなく寒くもない。
「…お腹空いた…豆大福食べたい…。ん?お腹空いた?」
神様は本当に意地悪だと思う。
死んだら食欲は無くなるんじゃないの?
食べなくてもいいじゃないか。
それなのに私の体は今、物凄く豆大福を所望している。
次々と現れる不都合な真実にモヤモヤとした心内に不満が募っていく。
どうせ此処には誰もいない。
気配は感じない。
不満を此処で発散させても誰にも文句は言われないのだ。
「…もうーーーーー!!!馬鹿ーーー!!天元に会いたいーーーーーーーー!!!」
響き渡る山びこが虚しさを掻き立ててくる。
いくら叫んでも天元はいない。
大好きな匂いは感じない。
そこには自分ただ一人。
ひとりぼっちなのだと理解してしまうと込み上げてくる涙を止めることもできずに目からこぼれ落ちた。
ボタボタと止め処なく流れていく大粒の涙が土に染み込んでいく。
次から次へとこぼれ落ちてもそれを受け止めてくれるのは天元の広い胸ではなく大自然だけ。
森羅万象に感謝をすべきところなのかもしれないが、生憎心に溜まった不満は感謝の気持ちをもたらせてくれない。
「ふぇ…、やだぁ…。天元〜…。」
「あんた、誰?」
「………へ?」
其処には誰もいなかったはず。
気配は感じなかったし、足音さえ聴こえなかった。
でも、その現象を私は知っている。
大好きな人のそれと似通っていたから。
涙を拭くこともせずに慌てて振り返ってみれば、其処にいたのは見覚えのある髪色に瞳の色。
だけど…ひと回り以上体が小さい天元に似た少年だった。
(………天元…?)
まるで天元の幼い時の姿のように見えるが、その頃の姿を知らない私はまじまじと彼を見つめることしかできなかった。