第42章 【番外編】過去との決別
「…悪かったって…。だけどよ…、あんまり知られたくなかったからさ。」
あまりに申し訳なさそうに謝る天元に責められているような気分になった。
環境の違いというのは難しい。
理解しようなんて烏滸がましいのだから。
だけど、そんな風に苦笑いされると居た堪れないのは私の方だ。
子どものように不貞腐れた私は部屋の襖を開けた。
「お、おいおい!どこ行くんだ!」
「厠!!ついてこないで!一人で行けるもん!此処に来る時教えてもらったから!」
許可なく此処から出るなって言われたけど、流石に厠の許可は取らずともいいだろう。
天元に向かってビシッと指を指すと目で『ついてくるな』と訴えかける。
心配そうにこちらを見る天元だけど、空気に耐えかねて飛び出してしまった。
(…何よ何よ…!そりゃ…勝手に此処に来たいって言ったけど…。少しくらい教えてくれたっていいじゃん!)
心から溢れ出すのは天元への不満。
だが…自分のしてしまったことへの後悔もある。
(…そんなに嫌だったんだ…)
もちろん嫌だと言っていたのは分かっていたけど、いつも何だかんだで「仕方ねぇな」って言ってくれていたから私は勘違いしていたのかもしれない。
心のどこかで天元自身も"過去のことを清算したい"と思っているのではないかって。
だから連れてきてくれたのではないかって。
「…はぁ…」
漏れ出るため息は思いの外、深くて重い。
天元に傷口に塩を塗りたくった挙句に更に抉ったようなもの。
それなのに私に優しくしてくれる彼に自分自身の浅はかさに愛想がつきそうだ。
厠に行ったらまずちゃんと謝ろう。
謝って薬の効果が分かり次第すぐに帰ろう。
十分に私は我儘を聞いてもらった。
大して催してもないのに厠に行って部屋まで戻ろうとした時に音もなく、腕を掴み上げられた。
ぶんっと空気を切る音と共に片腕がもげそうなほどの強さにそれが天元でないことは明白。
今まで音もなく近寄ってくるのは天元くらいのものだった。
でも、此処は違う。
彼の実家であり、忍の里だ。
他にも音もなく近寄ってこれる人はいる。
「て、…天承、さん…」
天元より少し低い身長だが、その視線の鋭さに私の体は恐怖で震えた。