第42章 【番外編】過去との決別
「…聞いてどうすんだよ。面白くねぇぞ。俺の昔話なんて。可愛い思い出なんて少しもねぇよ。」
「えー…だって、知りたいんだもん…。」
「聞いて泣くのだけはやめてくれよ?俺は泣かせたくないから言わないんだから。」
そう念押ししてもその表情が曇ることはない。
間髪入れずに大きく頷くとニコニコと微笑むほの花。
「…俺は下に何人も弟妹がいたからよ。気付いた時には一人で此処で寝てたな。」
「へぇ…そうなんだ。寂しくなかった?」
「…さぁ?考えたこともねぇよ。」
「そっか。…私なら寂しいなぁ…今でも寂しいかも。天元がいないと寝れないかもなぁ…」
「ハハッ、お前な。今でも寝れねェのはヤベェぞ?二歳の餓鬼じゃねぇんだから。」
俺を揶揄っているのかと思いきや、ほの花の視線はとても真剣だった。
それどころか少しだけ不満げに口を尖らせる姿に顔を引き攣らせる。
「そうだよ?二十一歳だけど、天元がいないと寂しくて泣いちゃうよ。だからどんな過去があったとしても今此処に天元がいることに本当に感謝してるよ?」
「…ほの花。」
「私なんか…天元の過去をちゃんと知って理解することすら出来ないと思うよ。そんなの分かってるけど、それでも知りたいんだもん。それってそんなにいけないこと?何で最初から話そうともしてくれないの?」
「いや、それは…お前が嫌な想いするかなって…」
「何でそれを天元が決めるの?私がどう思うかは私が決める。天元のことが大好きだから知りたいのに知ることも許されないなんてすっごい不満!」
ほの花の怒涛の言い分に冷や汗が垂れた。
言い返せなかった。
その時、やっと気付いた。
ほの花が傷つかないかどうかを気にしていた癖に本当は知られて嫌われるのが怖かったなんて。
初めて自ら欲して手に入れた念願の女。
鬼舞辻無惨を倒した今、自分達を阻むものは何もない。
二度と失いたくない女だからこそ、自分の一番知られたくない部分は墓場まで持って行きたかった。
そのつもりだったのに此処に来る羽目になってどんどんほの花に知られていくことに恐怖を感じた。
あんな愛に溢れた家族愛を見せられた後にこんな荒んだ宇髄家を見られることが嫌だったんだ。