第42章 【番外編】過去との決別
「天元…」と心配そうに俺を見上げるほの花だが、死に物狂いで止めてこないところを見るに、健康な者が服用するのであれば重篤な副作用があるわけではなさそうだ。
「まぁ、飲みたくねぇけどな?お前の薬、常軌を逸するほど苦ェから。」
嫌な部分はそこだけ。
ほの花のことは信頼しているし、薬の腕は確かだ。
本来であれば、自分の父親にそれを与えてやることすら勿体ない。
ほの花の手に持っていたそれを一包受け取るとそのまま口に含む。竹筒に入れて持って来ていた水で流しこむと独特な苦味が口に広がる。
「うぇっ、まっず!!」
「そ、それは…ごめんね…」
しかし、もちろんそれを飲んだところで毒ではないのだから直ぐに苦しみ出すこともなければ、ぶっ倒れることもない。
俺の様子を見て、毒でないことだけは信じてくれたようで天承が近づいて来た。
徐にほの花の手に持っていた薬を奪い取ると布団に横たえている父親にそれを飲ませる。
「…感謝などしない。金なら払う。」
「い、いえ…お金は…」
「黙れ。ただし、ちゃんと薬が効くかどうか数日留まれ。」
相変わらず失礼な物言いに眉間に皺を寄せて天承の前に出ると口を挟む。
「あのなぁ?感謝はしろっつーの。俺の女に失礼なこと言いやがって…そろそろ堪忍袋の尾が切れるぜ?」
「薬を置いて終わりか?随分と責任感のない薬師だ。こんなことをして嫁として認めてもらおうなんざ魂胆が見え見えだ。」
「はぁ?!テメェ…、ほの花の善意を…」
「分かりました!!」
「はぁ?!お前は口挟んでくんな!!」
こういう時のほの花は空気が読めない。
俺がせっかく早く帰れるようにしてやろうと段取りをしているところに無鉄砲に口を挟んできた。
後ろを振り返れば、仔犬のように愛らしい瞳で見上げられるので、咄嗟に目を逸らす。
この目で見つめられたら大半のことは肯定してしまう。
それが分かっているのは俺だけでなく、ほの花も同じ。
袖を掴んで「そうしよう?ね?」なんてニコニコと笑顔を向けてくるとんでもない馬鹿嫁。
嫁の笑顔に逆らえないなんていう俺もまた馬鹿なのは変わりない。