第42章 【番外編】過去との決別
天元のお父様は何を言おうととりあえず私のことを気に入らないのだ。
それならばもうこの際、気に入られようと思う邪な気持ちは排除すべきだろう。
「私は薬師です。品のないことではなく、病を見つけるための大切な問診です。では、私が言った症状は全て当てはまるということでいいですね?」
「…何故そう判断できる。私は何も言っていないぞ。」
「当てはまったから怒ったのでしょう?私のような品のない女に言い当てられて悔しかったんですよね?」
「っ!?き、貴様…!」
「放っておけば呼吸困難に陥り、いずれ死にます。今ならば薬を飲めば改善します。私は此処に薬を置いていきます。ですが、それを飲む飲まないはお義父様のお好きにされてください。」
自分が選んだ許嫁は雛鶴ちゃん、まきをちゃん、須磨ちゃん(厳密には須磨ちゃんは違うみたいだけど…)
。それなのに急に連れてきた女は全く忍のことも知らない薬師の女。
しかも、ズケズケと大胆不敵に物言いをするいけ好かない女だ。
父親としても腹が立つことだろう。
診断はついた。薬も持ってきた薬箱の中にあるもので事足りる。
薬師としてやるべきことは全てやった。
その後、患者がそれを飲むかどうかはその人の人生だ。
私が関与することではない。
私は持っていた鞄の中から薬包を取り出すと、後ろにいた天承さんにそれを渡す。
「これが薬です。もし良ければお飲みください。1日3回食後に飲んでください。」
「…いま、お前がそれを飲んでみろ。毒ではないか確認する必要がある。」
言っていることはわかる。
わかるけど…薬はその症状に合わせて飲む。
現在、心臓が悪いわけでもない私がそれを飲めば副作用が強く出るだろう。
しかも、無理ができない体になってしまった今、自分の体にとって毒になることを率先してやることは憚られる。
だが、たじろいだ私を見て、渡したそれが毒だと思ったのだろうか。
痛いほどの視線が厳しく突き刺さったことに思わず下を向いてしまった。
(…どうしよう…。こんな態度をしたら余計な怪しまれる…。)
だからと言ってそんなこと言い訳みたいに聞こえるだろうか。
沈黙という名の針の筵が容赦なく私に襲い掛かっていた。