第42章 【番外編】過去との決別
"親子喧嘩"
そんなものは超越してる。
此処で繰り広げられていたのは殺戮のようなもの。
でも、やっぱり私は物凄く甘やかされて育ったのだ。
この絶対零度の冷戦状態の現場であっても、何か突破口を見出そうとしてしまう。
そんな簡単なことではない。
そんな甘っちょろいことではない。
それでも考えてしまうのは私が甘やかされて育ったから。全く違う環境下で育ったからだ。
普通で考えたら彼とは出会うこともなかっただろう。
(……でも、出会った。)
そう。
私たちは出会った。
全く違う環境に身を置いていた者同士が出会い、恋に堕ち、そして愛し合い、夫婦になることになった。
奇跡的なことだとわかっている。
だからこそ諦めたくない。
「…ほの花、帰る…「まずは脈診をしますね。」
天元の言葉を遮って、首に当てられている義父の手を掴んだ。
その瞬間、目を見開きグッと首に圧がかかったが、ピリッと言う痛みにも笑顔を向けた。
「ほの花!!」
私には…関係ない。
この三人の中で何が起こっていたとしても。
私は知らない。
知り得ない。
理解もできないだろう。
だからこそ、私には関係ない。
そんな過去に囚われることはない。
私は私だ。
理解なんてできない。だって当事者じゃないから。
私が安っぽい言葉で励ましや取り繕いをしたところでそんなものは心に響かない。
理解できやしないことを理解しようとすること自体が間違っている。
私は私のできることをするだけ。
脈は体の状態を教えてくれる。
真実はそれだけ。
触れた手はやはり浮腫みがあり、間近に見た顔は顔色が悪いよりも土気色をしていた。
(…肝臓も良くないかな…。)
「とりあえず横になってもらえますか?」
「貴様…命が惜しくないのか?」
天元のお父様はそうやって私を不思議そうに見る。そりゃあそうだ。
刃物を首に押し当てられても尚、私の普通の態度は常軌を逸していると思うだろう。
でも、それに関して答えはたった一つ。
「命は惜しいですけど…何も起こりません。私には守ってくれる優しくて強い夫がいますので。」
そう。見なくても分かる。
臨戦体制でいてくれる天元のこと。
いざとなれば私を抱えて逃げてくれるだろう。
命が惜しくないわけじゃない。
私の行動の全ては天元への信頼故。