第42章 【番外編】過去との決別
ガタ…ッと音を立てる襖は建て付けが悪いようで天元の屋敷のそれとはまるで違う。
天承さんはそれを慣れた様子で開けると閉め切った部屋の中で布団に身を沈める一人の男性が見えた。
「父上、失礼します。薬師を連れて参りました。」
"父上"と呼ばれたその人
天承さんの父上ということは天元の父上でもある。
それなのに隣にいる天元は見たこともないほど冷たい目を向けていて、その関係性を如実に表していた。
ゴホッゴホッと咳き込むその男性は明らかに弱っているが、此方を一度見ると手をひらひらとさせて「帰れ」と言った。
それは私の隣にいた天元の姿を捉えたようにも見える。
すると、突然私の手を引いたまま踵を返した天元に私は体勢を崩した。
「…患者の望みだ。帰るぞ。」
「え…!?ちょ、っ!て、天元!」
もちろん彼が支えてくれているので、転んだりはしていないが、優しく手を添えてくれるいつもの天元ではない。
いま、彼が見ているのは過去の自分だ。
あの頃に戻りたくないと言う天元の心の叫びが聞こえてくるようだった。
でも、それでいいの?
過去に目を背けることは根本的な解決にはならない。
いや、それは天元が決めること。そこまで私が気にすることはお門違いだ。
私は私のすべきことをする。
繋がれた手をぶんぶんと振り回して「はーなーしーてーーー!!」と拒否を示せば、そんなことをされると思っていなかったのか天元は驚いた顔をして此方を見た。
その顔はいつもの天元で私は顔を綻ばせた。
「もう!勝手に決めないでよ!診てから決める!!」
「は、はぁ?患者がいらねぇって言ってんだろ…!」
「知らない!私、見えなかったもん。」
「…お、おいおい…ほの花…」
天元が狼狽えていても気にしない。
手を離すと布団の横に座り、寝ている男性の額に手を添えようとした──
が、できなかった。
瞬間にその手を掴み上げられると、首元にクナイを突きつけられたからだ。
「っ、ほの花!!」
慌てた様子の天元が声を張り上げるけど、此方に来ることは叶わない。
天元が一歩踏み出した瞬間、首に当てられていたクナイが私の皮膚に更に深く埋め込まれたからだ。