第42章 【番外編】過去との決別
静かな…いや、静かすぎる屋敷内はそれだけで活気のあった頃の面影はない。
これが宇髄家の成れの果てなのだろう。
やはり罪悪感は多少なりともある。
自分が抜けたからと言うのもあるかもしれない。
だが、遅かれ早かれ"忍"なんてものは無くなる。
陰陽師一族もまたその内、滅びてしまうだろう。
それは少数派の通る道なのかもしれない。
形あるものはいつかは壊れるように、永遠などない。
「…太陽が入らないようにしてるのは何故ですか?」
考え事をしていたせいで意識が浮上したのはほの花の透き通る声が廊下に響いたときだった。
隣を見れば天承相手に質問をしているほの花がいた。
「無駄口を叩くな。お前は言われたことだけ遣ればいい。」
「おい、ほの花に酷い言い方すんなよ。俺の女だぞ。」
「このくらいで傷つくようなら軟弱な女を選んだ自分を恨め。たかが女のことで何を言っているのか理解に苦しむ。」
そう。女は子さえ産めればいなくても死んでも構わない。
それは宇髄家の考え方。
だから天承がそう思うのは仕方ないのかもしれない。
しかし、隣にいるほの花は苦笑いはしているものの心臓の音は変わらず落ち着いている。
そういえば…瑠璃が来た時もこんな感じだった。
俺の方が苛々して腹が立っていたと言うのにほの花は落ち着いていた。
変わらない優しい空気感だった。
今もそう。
此方を見上げて首を振る彼女は『言い争いしないで。大丈夫だから』と言っているようにも見える。
深いため息を吐いてほの花の頭を撫でるとチラッと此方を射抜く天承に俺も睨み返す。
(…何言われたってコイツが大切なことは変えられねぇよ。)
やっと訪れた平和な世界。
手にした愛おしい女。
それを手放すことは絶対にあり得ない。
ほの花の手を引きながらギッギッと音を立て軋む廊下は崩れ落ちそうなほど脆くなっている。
ギリギリのところを保っている時に来れたのは幸か不幸か。
薬師としてほの花がやろうとしていることは尊敬しているが、俺の中でその行為をする相手に対して嫌悪感が消えない。
鬼殺隊として人を守って、"生"にこだわってきたと言うのに今の俺は"死"を望んでしまっている。