第42章 【番外編】過去との決別
「…あんた、名前は。」
大きなお屋敷の前で天元に降ろしてもらうと、隣に並んで、数歩踏み出したところでこちらを射抜く人に声をかけられた。
天元の弟さんだ。
クナイを私に向けるとその視線に殺意を感じる。
「あ…えと、ほの花です。不束者ですがよろしくお願い致します。」
「"宜しく"はしない。毒でも盛ってみろ。兄だった男の連れでもその場で斬り殺す。」
「…おい、ほの花に物騒なもん向けんな。」
天元がすぐに私の前に歩み出て背中に庇ってくれるけど、兄弟なのにその様子は殺伐としている。
私がお兄様達と喧嘩したとしてもこんな雰囲気にはならない。
やはり此処には相当な確執があるのだろう。
私なんかがおいそれと簡単に口を出すようなことではない。
元よりそんなことはできないと思っていたし、此処にきたのはたまたま薬師であることが役に立つかもしれないと思ったから。
「天元。大丈夫だよ。えと、天承さん。分かってます!診察して薬を処方するだけです。余計なことはしません。何なら武器を預けておきます。」
私は腰に携えていた舞扇を外すと彼に差し出した。武器と言われて渡されたものが舞扇で一瞬考えるような素振りをしたが、それを受け取ると乱雑に投げ捨てた。
「…妙な真似はするな。いいな。」
「分かりました。お約束します。」
ガチャッと音を立てて地面に捨てられたそれを足で蹴り上げる。
ザザザと音を立ててすぐに取りにはいけない位置まで転がっていくのを見ると、最初に思い浮かぶのは般若のような顔をして包丁を持った鋼鐡塚さんだ。
『万死に値する!!!』と言って一日中追いかけ回されていた炭治郎を目の当たりにしたことがあるので、この場にいないことにホッとするしかない。
私が変な行動を取らないか何度も此方を見ながら気を張っているのが見て取れる天承さん。
天元に手を握られていなければ、怖くて固まっていたかもしれない。
手から伝わってくる優しい温もりだけが安心材料。
極力、天元の体に引っ付いて離れないようにしたのは、やっぱり天元のそばが私の居場所だと感じたから。