第42章 【番外編】過去との決別
良かった…!
とりあえず会う手筈は組んでくれた。
天元と話しているのは"天承"さん。
実の弟さんだろう。
顔を見れば目元なんか似てる気がする。
私から見たら天元より素敵な人はいないけど、顔の整った一族なのだろうなぁと何となく推測できる。
木と木を飛び移ってどんどんと進んでいる天承さんの後を私を抱き上げながらついていく天元。
その顔はあまり喜ばしいものではない。
眉間に皺を寄せて、真一文字に引き締まったその表情にいつもの柔らかな笑顔はない。
天元が実のお父上に嫌悪感を抱いているのは知っている。
そんな風になりたくないと里を出たことも。
実の弟さんもそのお父上に似ていると言う点で苦手なことも知っている。
全部全部知っている。
だけど、里を抜けた後、後悔しなかったわけではないことも知っている。
少なからず自分のしたことに後悔の念を持っていたことも、地獄に落ちるかもしれないと落ち込んだことも雛ちゃんたちに聞いて知っている。
それでも此処に来たかったのは天元が私の家族と本当に楽しそうにお酒を酌み交わしていたから。
つらい過去を持っているのに、私と家族になろうとしてくれたこと。
私の家族のことも自分の家族と思ってくれていることを知っている。
本当は会いたくないわけではないと思う。
どんな顔をして会ったらいいかわからないのではないか。
私のことを心配してくれてるのも本当だと思う。
いつもは自信に満ち溢れている天元だけど、自分の里のことになると途端に口を噤む。
寂しいとか寂しくないとかそう言う感情を抜きにして、私ができることをしたい。
余計なお世話と言われてもいい。
"やらずに後悔"するくらいなら"やって後悔"したい。まだ生きているのだから。
"生きてる奴が勝ち"
天元はよくそう言っていた。
人は皆、いつか死ぬのだ。
もう死んでしまった人に会うことはできない。
いくら会いたくても会えない。
だったら会えるならば会うべきだ。
少なくとも私は会いたい。
だっていくら嫌いでも、苦手でも私はどうしても天元のお父上に言いたいことがある。
天元という人がこの世に生を受けたことを私は心から感謝しているのだから。
今の私にとって天元と出会えたことが天からの贈り物とさえ思っている。