第42章 【番外編】過去との決別
「会ったばかりの貴様を信じられるとでも思ったか?能天気な女だ。」
まぁ、それは大いに納得だ。
ほの花にとってみたら病人と聞いて条件反射に出た言葉だとは思うが、天承にしてみれば突然連れてきた知らない女。
義姉になったとは言え、自己紹介もまだしていない関係性。
それでも臆することなくほの花がそう提案したことに多少なりとも動揺しているのが見て取れる。心臓が少し跳ねたのが分かったから。
「でも…、具合が悪いんですよね…?」
「ほの花…やめとけ。もう分かったろ?出直そう。」
出直すつもりはない。
恐らく次にここに来た時は本気で殺しにかかってくるだろう。
そんなことが分かっているのに、今度こそノコノコと此処に来たり出来やしない。
「…駄目…駄目だよ…!」
帰るため、踵を返そうとしたのにそれを止めたのはほの花の声。
俺の襟ぐりを掴んでぶんぶんと首を振っている。
「次なんてなかったらどうするの?具合が悪い人がいるって分かってて帰るなんて、医療者として後ろ指差されるような行為したくない。」
「…ほの花。天承とも此処で会わなかった。俺たちは此処には来てない。忘れろ。行くぞ。」
「来たし、会ったし、知ってる!天元と結婚した以上、私にとっても義理の父なの!後悔はしたくない!万が一でも人が死ぬのなんてもう見たくない!!」
薬師の性分かもしれない。
ほの花の性格かもしれない。
どちらともかもしれない。
でも、その真剣な瞳にあまりの剣幕に天承ですら驚いたような顔をしたのが分かる。
本来のほの花は我を通すような奴ではない。
控えめで優しい性格。
"万が一でも人が死ぬなんてもう見たくない"
それは俺たちの中では共通認識。
鬼との戦いで俺たちはたくさんの仲間を失ってきた。寿命の限りを知りながら生きている奴もいる。
そんな中でほの花が薬師として、人として、これ以上誰にも死んで欲しくないと思うのは当たり前のことだ。
どうほの花を宥めようかと考えていた時、口を開いたのは俺たちの様子を見ていた天承だった。
「…変な真似をしたらその場で殺す。ついてこい。」
思ってもいない申し出に眉間に皺を寄せたのは俺だけ。
嬉しそうに笑うほの花とは対照的にため息を吐いた。