第42章 【番外編】過去との決別
「…誰だ、その女は。のこのこと帰ってきたかと思えばどういう料簡だ。」
腕の中に大人しく収まっているほの花は俺と天承を交互に見て不思議そうな顔をしているが、目の前にいるソイツは殺気を隠すこともせずに睨みつけてくる。
「んー?まぁ、俺の嫁だ。クソ可愛いだろ?つーことで、お前の義姉になる。苛めんなよ。」
「……ふざけるな…。あの三人はどうした。そんな虫も殺せなさそうな女が宇髄家の嫁だと?話にならん。」
まぁ、"虫も殺せなさそうな"と言うところは大方当たっている。ほの花は虫嫌いだし、実際に退治などできやしないのだから。
「とりあえず其れは…首領を交えて話す。いるか?」
父親と呼ぶのは憚られる。
一度は此処を出て行った身だ。あの人にとって俺はもう息子と言えない存在だろうから。
しかし、父親が家にいるか聞いた途端に目の色が変わる天承に俺は眉間に皺を寄せる。
明らかに動揺して、唇を噛み締めるその姿に既に他界しているのではないかという未来を想像した。
「…まさか…」
「……いる。だが…、もうアンタには関係ないことだ。帰れ。女諸共殺すぞ。」
どうやら最悪の事態だけは免れていたようだが、多少なりともドクンと胸が跳ねたのはやはり父親と認識しているからだろう。
大きく深呼吸をして、天承を見遣ると話を続ける。
「…俺の嫁が結婚の挨拶をしたいんだと。はるばる来たんだ。顔だけでも見せてもらうぜ。そうしたらすぐに帰る。」
「帰れ!!!父上は……、人と会えるような状態ではない!!」
しかし、返ってきたのは拒否を示す言葉。それも"会えるような状態ではない"という何とも意味深な言葉。
それに早く反応したのは俺よりも腕の中にいたほの花だった。
「…ご病気ですか?」
「?!黙れ。その綺麗な顔を血まみれにされたくなければ、その裏切り者と逃げ帰れ。」
「私は薬師です。ご病気ならば拝見させてください。」
「お、おいおい、ほの花…」
辛辣な言葉を浴びせる天承をものともせずに、話を続けるほの花は強い意志を宿している。
確かに体は弱ってしまっている。
だが、俺は忘れていた。
コイツが鬼殺隊で誰よりも頼りにされていた薬師であったことを。
その瞳に少しの迷いがないことに心の強さを感じた。