第42章 【番外編】過去との決別
天元は私のことを気にして、ちらちらと様子を伺ってくるけど、私的には今回のこの案件をちゃんと受け止めている。
どんな結論になろうともそれを受け入れている。
本人は気付いていないかもしれないけど、里に近付くにつれて口数が少なくなっているのは天元の方。
私はと言うと至って冷静だった。
里に帰るのが気が重いと思ってることも知っているし、私を気遣ってくれているのも分かってる。
天元とご家族を仲直りさせたいとか
家族と仲良くなりたいとか
そんな甘っちょろい考えなんてない。
天元のことは愛しているけど、此れは完全に私の我儘。認めてもらいたいと言うよりも結婚の挨拶に行くことでやっと『宇髄家の嫁』になれるような気がしたから。
そもそも雛ちゃん、まきをちゃん、須磨ちゃん達三人の嫁がいたのに急に私のような"新しい嫁"が来たら嫌悪感があるのは当たり前。
そこに驕りはない。
ただ"会ってみたい"という好奇心が勝った。
嫌われても
罵詈雑言を吐かれても
"新しい嫁"だと認識して欲しかった。
認めてもらえなくてもいいんだ。
だから天元の心配ははっきり言えば取り越し苦労のようなもの。武器を持ってこいと言うのは多少ビックリしたが、いざとなれば逃げてくる覚悟もある。
「…もうすぐ里に入るから…気を引き締めておけ。」
「うん。分かったよ。」
グッ…と私の手を握りしめる手の力が強くなると天元の葛藤が伝わってくるようだ。
私の我儘を叶えてくれた彼に感謝と申し訳なさが共存する変な心境。
私も天元の手をぎゅっと握り返したその時、背後から殺気を感じた。
しかし、私がそれを感じるより前に体は既に浮き上がり、木の上に飛び上がっていた。
気がつけば私の体は天元の腕の中にあってすぐ近くに顔があった。
「よぉ…久しいな。いきなりクナイを投げつけてくるたぁ随分な歓迎だぜ。」
「…何故戻ってきた。裏切り者。」
「まぁ、そう殺気立つな。殺し合いに来たわけじゃねぇ。コイツが驚いちまうだろ。落ち着け。天承」
"天承"と呼ばれたその人は明らかに私たちに敵意を剥き出しにしている様子だが、天元は懐かしそうに少しだけ目尻を下げた。