第42章 【番外編】過去との決別
虹丸に偵察に行かせたところ、里は閑散としていて殺伐とした空気はなかったとのことだった。
もちろん鎹鴉に警戒などしないだろうから、それ故の反応な気もしたけど、明らかに忍の家系も衰退の一途を辿っているのは分かる。
それは陰陽師の家系もまた同じで、泰君さんも陰でコソコソと生きることへの苦労を察してくれていたようだった。
俺とほの花は似ているようで真逆の環境だったように思う。
同じように陰でコソコソ生きていても、家庭環境はガラリと違う。兄妹で殺し合いをさせられるような殺伐とした空気で育った俺と違い、ほの花は家族に愛されて行動制限をされながらものびのびと育った。
それに対して羨望はない。
俺はこういう風にしか生きられなかった。
環境を恨むことはできないし、ほの花もまた不自由な想いをしながら生きてきたのだ。
違うからこそ惹かれた。
違うからこそほの花と家族になりたいと感じた。
サラッと行ってサラッと帰ってくる。
初めからほの花と馴れ合わせるつもりがない俺は善は急げとばかりに、虹丸が帰ってくるや否や、翌日には出発をした。
元嫁三人達にも心配されたが、其処は押し切る形で出てきた。
申し訳なさからなのか横で口数が少ないほの花の手をひきながらも体調を確認する。
「…疲れてないか?少し休んでもいいぞ?」
「大丈夫!まだ一時間だもん。もう少し歩くよ!」
顔を上げた彼女は笑顔でそう返すけど、疲労の色は見え隠れする。
俺のもう一つの気掛かりなことは此れだ。
ほの花の体調。
里までの道のりは険しいし、人に迷惑をかけたくないほの花がギリギリまで頑張るのはわかっていたが…。
(…此れをあの二人に見られたら余計にほの花に酷いことを言うかもしれねぇ…)
女は子を産むことが仕事。
健やかであることは当然だ。
胡蝶からも生前、体調が戻るまでは子作りなど体に負担になるようなことはしないようにと散々言われていた。
だから情交はしても膣内射精をしたことはない。
だいぶ体調は良くなってきているとは言え、やはりほの花の疲れやすさはあるようで、以前のような体力はない。