第42章 【番外編】過去との決別
天元の顔が曇ったのを久しぶりに見た。
いつも優しい笑顔でそばにいてくれる彼の悲しそうな表情を見るだけで胸が締め付けられそうだ。
すぐに願いを取り下げたけど、いつだってすぐに譲歩してくれる天元が珍しく事細かく事情を聞いてくるあたり──
(…本当は嫌なんだろうなぁ…。)
義理の父親、義理の弟となる人に会ってみたいと言う希望はある。
やはり宇髄家に嫁ぐのだからちゃんとご家族の許しを得てから嫁ぎたい。
それに、本来ならば雛鶴さんたちと結婚していたところを私が割って入ったのは否めない。
きちんとお詫びを入れて、ご挨拶をしたいと思うのは当然のこと。
天元は私が傷つくのではないかと気にしているが、そもそも最初から罵倒されるつもりで行くのだからその心配は無用だ。
だけど…
本当は私のためだけじゃない。
(…会いたくない…んだろうなぁ。)
私は天元の過去のことは聞いたことしか知らない。
どんなところで育って、どんな風に生きてきたのか。
私は知らない。
知らなくても愛してる。
でも、知りたくないと言えば嘘になる。
鬼殺隊の時はそこまで気にならなかったことも、鬼がいなくなった今はやはり気になる。
薬師の仕事に、任務に…とやることがたくさんあって、忙殺されていた毎日から解放されてしまうと心に余裕ができる。
その余裕が余計なことを考えてしまう。
天元の過去まで知りたいと──
「…あのね、別に天元のご家族に何を言われようと平気だよ。でも、認めてもらえなくても"天元と結婚させていただくことになりました"とちゃんと伝えたい。」
「わぁーってるよ。お前の気持ちは…。でも…、期待はしないでくれよな?不服ではあるが…念のため、舞扇も持っていけ。」
舞扇──
それは鬼狩りをしていた時の私の得物。
武器を持っていけと言う意図とは何か?
答えは簡単だ。
(…戦うことになるかもしれないってこと、か。)
かと言って私は半年以上戦いの場に身を置いていないのだから大した戦力にはならない。
家族で殺し合いをしないといけないかもしれないということならば、やはり行かない方がいいのだろうか?
しかし、苦渋の決断をしてくれた天元に話を蒸し返すようなことを言えなくて、私は口を噤んだのだった。