第42章 【番外編】過去との決別
ほの花は分かっていない。
俺がどれほどほの花を愛しているか。
お前はこの時のために我儘を言わずに取って置いたのか?
ほの花と恋仲になってからというもの、俺はほの花がちっとも甘えてくれないことに悩み続けていたと言うのに。
鬼舞辻無惨を倒して、神楽家に挨拶に行ってからほの花はだいぶ俺に甘えてくれるようになっていた。
体調が悪ければ素直に部屋で寝てるし、「一緒に寝て?」って言ってくる時もある。
そんなほの花の変化が嬉しくてたまらない今日この頃。
と言う時に駄目押しかのように実家に行きたいと言われた。
"里を抜ける"というのは簡単に言えば"宇髄家から逃げた"ようなもの。
家族を捨てたと言われても仕方ない。
ほの花だってそれを知っている。
それでも行きたいと言ったのにはほの花なりの覚悟の表れかもしれない。
「…正直、里がどうなってんのか俺にも分からねぇ。お前を危険な目に遭わせるかもしれない。」
「……そっか…うん。分かった。ごめんね。もう言わないよ。」
(あ〜…まぁ、そうなるよなぁ…。)
俺の言葉にほの花が一歩引いたのが分かった。危険な目に遭わせるかもしれないというのは裏を返せば、体調がまだ本調子でないほの花からすると自分が足手まといになるかもしれないと感じるだろう。
せっかく訪れた平穏だ。
この幸せを壊したくないと願うのは当たり前のことだ。
「…何で急に行きたくなったんだよ。」
行かせたくないというのは事実だけど、理由だけでも聞いておきたかった。
それが夫である俺の責務だと思ったから。
すると、ほの花は隣で座り直して地面を見ながらぽつりぽつり…と話し始めた。
「…この前、私の実家に来て、天元が私の家族になったんだって思って嬉しかったから…、私も…宇髄家の人と仲良くなりたい…って安直に考えてしまいました…。ごめんなさい…」
消え入りそうな声で最後らへんは普通の人間なら聞こえないほどの大きさ。
でも、ほの花の想いや考えはちゃんと俺の耳に届き、そのあまりに純粋な想いに頭を悩ませた。