第42章 【番外編】過去との決別
「やっぱり…駄目?」
「駄目。」
「…何で?」
突然、俺の実家に行きたいと言ってきたほの花。
その顔は真剣そのもので軽々しく言ったわけではないことは分かる。
つい先日、俺がほの花の実家に挨拶に行ったことが引き金となっていることは安易に想像できるが、神楽家と宇髄家ではわけが違う。
確かにほの花の兄君たちは俺のことを目の敵にしていたし、最初は相容れなかった。
うっかり情事後の朝に、素っ裸で出くわしてしまったがために"婚前交渉の鉄の掟"を約束させられたが、帰ってきてしまえばこっちのもんだ。
依然として俺はほの花とのまぐわいを楽しんでいるのは間違いない。
不満そうに揺れる瞳は黒目がちで仔犬みたいに可愛いが、俺にはそれを躊躇する理由がある。
「…ほの花みたいな奴とは一生交わることのない人格の人間だ。会っても実りはない。」
父親も弟も人として何かが欠落している。
もちろん家族には変わりないが、優しく穏やかで愛されて育ってきたほの花は会う必要のない人間だ。
会えばほの花が傷つくのは目に見えているし、俺の家族がほの花を受け入れるとも思えなかった。
女は子どもさえ産めればいい。
子孫を残すためだけにいるなどという捻じ曲がった考え方の父親と弟。
そんな中で、俺が同じような考え方にならなかったのは奇跡的だ。
いや、ほの花と出会わなければ、僅かながらに根底には残ってたかもしれない。
とにかくほの花と出会ったおかげで俺の人生はガラッと変わった。
だけど、ほの花もほの花で俺と真逆の人生を歩んできたのだから、感覚も違えば発想も違う。
少しだけ目線を逸らして空を見上げると突然、膝にあった重さが無くなり、視線を感じた。
隣を見れば、ほの花がこちらを見て口を尖らせている。
「私だって天元の実家に行ってみたいんだもん〜!」
「な、っ、い、行ってみたいっつってもよ。俺は抜けてきたんだ。ぬけぬけと帰れるか!」
「……そっかぁ…。」
明らかにがっかりして、ついでに言うと少しだけ瞳が潤んだように見えたほの花に俺は再び天を見上げた。
(……このド天然の人たらしめ…)