第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
いつの間にか天元が隣にいなくて慌てて部屋の中を見渡してみた。
だが……
「…いない…」
外にいるかもしれないと縁側から出てみると綺麗な月明かりだけが降り注ぎ、そこには誰もいない。
天元は別に方向音痴ではない。
だけど、お父様に散々飲まされていたし、ひょっとして酔い覚ましでもしているのかもしれない。
それならばこの近くにいるだろう。
どちらかも分からないまま「てんげーん!」と声を上げながら歩いていく。
小さな声でも耳が良い彼ならば私の声を拾って反応してくれるはず。
今日は凄く良い天気で、月明かりだけでなく星まで綺麗に見える。
今住んでいるところよりもやっぱり此処のが星空は綺麗に感じる。
こんな山奥なのだから当たり前だ。
だけど、どこまでも繋がっている空は産屋敷様のところに出向いて離れた時も寂しいと感じさせなかった。
天元がそばにいてくれたと言うことも大きいけど、人と人との繋がりをこの空で感じることもできたから。
だが、歩きながら夜空を見上げていれば当然足元は見えていない。
遊郭での戦い以降、私はすっかり戦いから離れていたため、体は完全に鈍っていると言って良い。
「…ひゃ…っ!」
だから小さな石に足を取られて転びそうになったのは自分の責任だ。
咄嗟に受身を取ろうにも今日は動きにくい着物を身につけていて手も足もすぐに出なくてどんどんと地面だけが近づいていった
……が、斜めになったまま止まった体に思わず瞑っていた目をゆっくりと開く。
「おーい、よそ見しながら歩くなって。危ねぇぞ。嫁入り前に可愛い顔に傷付けんなよ。」
「…て、天元!」
「全くだ。昔からそういう鈍臭いところは変わらないな。」
「へ…?お、お兄様…!」
体を支えてくれている天元の優しい笑顔に釣られて笑ったのも束の間、後ろから現れた泰君兄様の姿に私は身を固くした。
先ほどあれほどまでに大喧嘩をした後だ。
気まずい空気が流れることは間違いないと踏んでいたのにお兄様はいつもの様子でこちらを見つめていた。
この二人が一緒にいると言うことが信じられなくて、ゆっくりと体勢を整えると天元とお兄様を見比べる。