第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
サシで話してみれば、泰君さんはそこまで感情的に怒鳴ったりする人ではなかった。
冷静沈着で長兄として家を守って行かなければならないという責任感の強さと妹であるほの花の親代わりだったせいで余計に心配だったのだろう。
「宇髄…天元、だったよな。」
「え?あ、あー、そうです。」
「そうか。なら天元。お前にこれをやる。」
突然、名前を呼ばれたと思ったら目の前に差し出されたのは先ほどまで話の中心だった琥珀という宝石。
宝物のように大切に持っていたと思われるそれを俺にくれると言うのか?
流石にもらうのはしのびなくて一歩後退りをしてしまう。
「は、え?いやいや!頂けませんよ!大切な物じゃないですか。」
「だからお前に引き継ぐ。俺の役目は終わった。これからはお前が守ってやってくれ。」
泰君さんの目は真剣だ。
渡されたそれは月明かりを浴びてキラキラと輝いている。
大切に大切に守ってきたのだろう。
大切な大切な妹がくれた琥珀を。
そう考えると泰君さんの手の中で輝くそれがほの花の想いのようにも感じて、吸い寄せられるようにそれを受け取る。
「…本当に良いんですか。」
「ああ。その代わり、妹を泣かせたらぶっ殺して地獄に送ってやる。」
「ぶっ殺されたら大事な女守れないじゃないですか。」
「心配するな。俺が天元よりも良い男を選んでおく。」
「ちょ、冗談じゃないですよ!どこの男っすか?!先にド派手にぶち殺す!!」
「はぁ?!阿呆か!例え話だろうが!!」
つい他の男を選ぶという言葉に反応してしまったが、言葉尻に顔を見合わせるとどちらかともなく口角を上げた。
どうやら認めてもらえてはいないかもしれないが、とりあえず一方的に嫌われているというのは回避できそうだ。
「…お前……、俺が言うのもなんだが、筋金いりの"ほの花馬鹿"じゃねぇか。」
「何か問題でも?」
「……無い。ほの花を泣かせねぇなら文句はない。」
泰君さんとの関係性が少しだけ改善したと思われた頃、遠くに聴こえる俺を呼ぶ愛おしい女の声に振り返る。
「俺の可愛い女が呼んでるんで行きましょう。お義兄さま♡」
「や め ろ 」
そんなふざけ合えるだけの関係性にはなれたことに緩む顔を抑えることはできなかった。