第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
最初見た時、軟派な男だと思った。
体格は誰が見ても恵まれていて、容姿も何人の女を泣かせてきたのだ?と思うほど整っている。
もちろんほの花も我が妹ながら美人なのは分かっているが、男に免疫がないのも分かっているのだ。
そんな純粋無垢なほの花がこの男に騙されているのだと安直に感じるのは仕方ないことだと思う。
でも、ほの花があそこまでムキになっていたのはそれだけこの男を好いているということ。
それはちゃんと理解している。
いつの間にか大人になっていた妹を受け入れられていなかったのは俺の方だ。
もう山を登るのに抱っこしてやらなくてもいい。
迷子にならないように手を引いてやらなくてもいい。
寝る時に昔話を聞かせてやらなくてもいい。
いつの間にかそんなことしなくてもいい年齢になっていて
いつの間にか家族よりも近しい間柄の人間ができた
いつかはこんなときが来るに決まっていたのだ。
「…忍も…なかなか大変だっただろ。うちも扱いとしては似たようなもんだ。表立っては言えない古の存在だ。」
聞けば、忍の家系だと言う。
今の世の中的には既に必要のない人種と言ってもいい。
陰に隠れて生きてきた陰陽師の家系だからこそ、隣にいる男もまた見た目こそ派手で明るい男だが悲しみや苦しみを乗り越えてきたことは容易に想像できる。
だこらこそほの花のことを理解してくれるのかもしれない。
こんな山奥で育って、自由に町に降りれる俺たちと違い、知らないことがたくさんある世間知らずな妹だ。
"兄"より"男"としての方が何倍も心配は多いだろう。そう考えれば少しだけこの男が不憫に思える。
「まぁ…それなりには。それがあるから今があるとも言えるので…。里のことを忘れることはないですけど、振り返ることはないです。俺には守るべき未来があるので。」
"守るべき未来"
鬼のいぬ今。
コイツが守るべきと言っているのはほの花との未来だろう。
「…アイツは…妹としては可愛いが、自分の女とするには…忍耐力が必要だぞ。それも"忍"のか?」
「ハハッ!辛辣ですね。大丈夫です。長所も短所もひっくるめて愛してますんで。」
そう言って笑った宇髄天元という男は
今まで見たどの男よりも
頼りになる男に見えた。