第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
『おにいたまー、まんまるお月様みたいだねー!きれいだねー!』
『そうだな。ほの花が一生懸命磨いてくれたから満月みたいになったな?』
『まんげつ!!わーい!!おにいたまにまんげつあげたー!!』
琥珀をくれた時、ほの花は丸いその宝石を"お月様"のようだと言った。
子どもの言うことだが、確かに色も形も似ていて、月明かりに翳してみれば本物の満月のように輝いて綺麗だった。
それ以来、ほの花は事あるごとに『お月様見せてー!」と言ってやってくるようになった。
俺の誕生日にくれたものだが、ほの花が見たいと言った時にすぐに見せれるように俺はそれを常に懐に入れていた。
しかし、その琥珀を見て一体何人の人間が"月みたい"だと言うだろうか。
俺は他の弟たちにも両親にも里の奴らにもそれを見せたことはあるが"月みたい"だと言う奴は誰もいなかった。
それなのに今日、ほの花の婚約者だと紹介された男はそれを見た瞬間、何の迷いもなく"満月みたい"と言った。
ほの花以来初めてのことで、正直驚いた。
「…この琥珀を満月みたいって言ったのはほの花以外でお前が初めてだよ。」
「へ…?!そうなんですか?満月にしか見えないけどなぁ…。でも、じゃあ…これで俺とほの花が固い絆で結ばれてるって分かってくれます?」
「…調子に乗るな。」
「ハハッ!やっぱりそうですよね!気長に行きますわ。」
軽口のように見える言葉の数々だけど、その男は決してブレない。
どれだけ俺が辛辣な言葉を浴びせようとふわりと躱してしまう心の強さがある。
「…ほの花のことを生涯を通して幸せにする自信はあるのか。」
「そりゃあ勿論です。今世だけでなく、来世でも愛し続けますよ。俺の嫉妬深さを舐めないでくださいね。何人たりともほの花に近寄る男は許しませんよ。」
口元はニヤリと微笑んでいるが、その目は笑っていない。
嫉妬狂いしているというのは間違いないのだろう。そして、何よりもこの男は兄である俺に奥することなく、本音をぶつけてくる。
社交辞令を言うわけでもなく、其処に強い信念を感じた。
(…ほの花のことは…本気だということか…)