第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
『おにいたまー!!あげゆー!!ほの花のたからものー!!』
小さかったほの花は俺の後をいつもついてきた。今思えば不在がちな両親に甘えられない寂しさを俺が補っていたのだろう。
ある日の俺の誕生日、山で見つけた綺麗な石を贈り物としてくれたのだ。
琥珀と呼ばれる種類のものでほの花を連れて山に散歩に行った時に偶然見つけた代物で、見つけた時は大喜びしていた。
『ほの花、こう言う石は磨けば磨くほど綺麗に輝くんだ。毎日磨くといいぞ。』
『そうなの?!わかったーー!!まいにちみがくーー!!』
素直な妹は俺がそう言えば毎日のようにせっせとその石を磨いていたのを昨日のことのように覚えている。
そんな大切に大切に磨いてきた石は今でも懐に入れて宝物にしていた。
思えば俺のほの花への愛情の深さはその頃から始まったのかもしれない。
小さな手で一生懸命に磨いて、溢れんばかりの笑顔を向けてくれた大切な妹。
月明かりにそれを翳してみると飴色の綺麗な輝きが俺を照らす。
小さな蕾がだんだん大きくなり、やがて大きく花開く。
小さかった妹は今や立派な成人女性。
変わらない関係性の中に、変わっていくほの花から離れていくようで嫌だった。
ほの花の幸せを願っているのは本当だ。
誰よりも何よりも幸せになってほしい。
だが、いつの間にか俺の中でほの花に対して己の所有物だという感覚が根付いてしまっていたように思う。
親代わりをしてきたのは本当だが、意志のある人間のほの花を自分の思う通りにしようなんて間違っている。
「…嫌い…か。結構、クるな…」
「わかりますよ。俺も言われたことあるんですよねー。あれはキツイっすよねー。」
「?!?!ッ、き、貴様…!?」
突然その場に響いたのはほの花の婚約者だと言う男。
まるで風のように現れて、全く足音が聴こえなかった。
感傷的になっていたのは否めないが、それにしてもこの男がかなりの強者だと言うことがそれだけで理解できる。
振り向いた先にいたその男はいつだって同じ笑顔を貼り付けてこちらを見ていて、その姿がどうにも胡散臭いと思ってしまう。