第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
ほの花と泰君さんが喧嘩をしたのは本当のようで宴の席でも少しも顔を合わせない二人に人知れずため息を吐いた。
先ほどまでは俺が宗一郎さんの酒の相手をしていたのだが、正宗達とも久しぶりの再会だ。
俺たちと同じくして、結婚の挨拶に来た雛鶴達を紹介しつつ、酒を酌み交わしている。
こんな賑やかな宴会は久しぶりだ。
いや、心穏やかにするのは初めて…かもしれない。
鬼殺隊の柱仲間とはたまに親睦会と称してやっていたが、いつだって鬼との戦いの最中。
明日には誰が命を落としてもおかしくない中で少しだけ羽目を外して飲むそれは美味いが、いつも神経は研ぎ澄まされていた。
酔っ払っていてもどの柱だってすぐに戦闘態勢になれるだけの余力は残して飲んでいた。
随分と仲間は減った。
寿命の限りが分かっている奴らもいる。
そんな中で俺は生き残った。恐らく見送る側になるだろう。
ほの花との結婚も少しばかり躊躇したのは事実。
あまりに多くの仲間が死にすぎて、自分だけが幸せになってもいいものか分からなかったのだ。
それはほの花も同じようで、最終決戦から数ヶ月はどちらもその話題を振ることはなかった。
でも、奴らの遺書を見せてもらった時、俺の腹は決まった。
──宇髄さんとほの花さんが結婚する姿を黄泉の国でしかと見ております。必ず幸せになってください。あと、残された人たちのことをよろしくお願いします。
これは胡蝶の言葉だが、どいつもこいつも俺とほの花の未来を後押しする言葉ばかり。
仲間の死を悲観して自分らの未来まで諦めることは誰のためにもならない。
必死に戦ってもぎ取った平和な世界。
その中で俺はほの花と共に生きると決めた。
目の前にある猪口を持って一気に飲み干し、部屋の中を見てみると先ほどまで斜め前にいた泰君さんがいないことに気付く。
灯里さんと何やら薬のことで話し込んでるほの花はすっかり薬師の顔。
俺の元継子だが、薬に関しては灯里さんが師匠なのは間違いない。
此処ぞとばかりに聞きたいこともあるのだろう。
そんな二人を邪魔しないように立ち上がると耳を澄ませて遠くに聴こえる足音を追った。