第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※

「俺もあの時、マジでアイツにクソ腹たってたっつーの。それなのにお前と来たらニコニコいつもと変わらねぇからよ。どれだけ俺がヤキモキしたか分かったか？」


天元の言っているのは瑠璃さんのこと。
彼女が最初、屋敷を訪れた時に私を敵視していたからだ。
今ではその時のことは思い出せないほど、姉妹同然の仲の私たち。

刀鍛冶の里には定期的に遊びに行くし、瑠璃さんもまた遊びに来てくれる。

だけど、天元に言われて少しだけ似通った状況下なのは間違いなくて、私は苦笑いを彼に向けることしかできない。


「…う、うん。あの時は…ごめんね？」


「謝ることはねぇけどよ。だからさ、俺も今、別に気にしてねぇから。早く仲直りしろよ。可愛い妹が初めて噛み付いてきたってんなら衝撃はひとしおだろうぜ？」


「…でもーー…、やっぱり腹が立つんだもん…！謝ってくれないと許せない…！」


「確かに認めてほしいけどな？結婚は当人同士の問題だからさ。ほの花の両親が認めてくれてる以上、泰君さんが認めてくれてなくとも事は進められる。」


それはその通りだ。
結婚するのは私と天元であって、お兄様達は関係ない。
認めてほしいし、天元に謝ってほしいけど、そんなことをせずとも事は進められる。
結婚することの弊害にはならない。


「まぁ、ほの花の気持ちは分からんわけではないからさ。俺も機会見つけて泰君さんと話してみるわ。」


「え…！ま、また酷いことを言うかも…！」


「はいはい。とりあえず早く配膳やっちまわねぇと今度は灯里さんに怒られるんじゃねぇの？」


「そ、それはそうだけど…！」


穏やかな笑顔のまま天元に背中を押されると私は後ろ髪を引かれる想いを抱きつつ、台所に向かった。
後ろを振り向けばいつもの優しい笑顔で手を振ってくれている。


天元の言う通り、此処でウダウダ言って彼に泣きついていたら今度はお母様に怒られるに決まっている。


大きな溜息はきっと天元には聴こえてしまってるだろう。
お兄様のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

でも、生まれて初めて愛した男性を認めて欲しかった。
これでは私のことも疑っているようなものだ。

それがとても悲しかったんだ。