第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
「…ばぁーか。気にしてないって言ったろ?」
そう俺が言ったところでほの花の気は済まないのだろう。下を向いたまま唇を震わせている彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
──遡ること数分前
宗一郎さんは酒が強い。
夕餉前に酒を酌み交わしていたが、一向に酔う様子が見えないのは流石だ。
俺も強いので特に問題ないが、流石に夕餉前に飲み過ぎだと灯里さんに止められて、大広間に案内されたのは先ほどのこと。
そこには正宗達や雛鶴達もいて、見知った顔に頬が緩んだのも束の間だった。
辺りを見渡してもほの花の姿はない。
正宗達に聞いても知らないと言うので探しに行こうとした時、慌ただしくお盆に料理を乗せて運んできたほの花。
それなのにこちらも見ることなく、再び部屋を出て行ってしまった彼女の顔色が優れなくて、眉間に皺を寄せた。
部屋を出るとほの花の後ろ姿を見つけて慌てて駆け寄った。
すると、ポツリポツリと話し出した内容は長兄である泰君さんと喧嘩をしたということ。
それも自分のために喧嘩をしたと言うほの花に俺の顔はニヤけてしまう。
そして冒頭に戻る。
「でも…!天元に酷いこと言って…許せなかったんだもん…!謝るまで許さないって…初めてお兄様に怒っちゃった…」
「そうか…。まぁ、分からんでもないけどな。瑠璃と一悶着あった時の俺の気持ち分かったろ?」
「え…?……あ、ああ!」
ほの花は今の今まで忘れていたかもしれないが、瑠璃が初めて来た時、ほの花に酷いことを言っていたことを思い出す。
あの時、本当に毎日苛ついていた。
顔を合わせればほの花に罵詈雑言を言う瑠璃にどれほど腹が立ったか。
自分に言われるよりも何倍も嫌だった。
愛してる女が自分の目の前で傷つけられることは何よりも望んでいないこと。
ほの花も瑠璃との時は傷ついていない様子だったが、正直、今の俺はおそらくその時のほの花と同じ心境だ。
辛辣な言葉を浴びせてくるのは血を分けたほの花の実兄。
認めてもらいたい気持ちはあれど、腹が立つことはない。
だからほの花の気持ちは物凄くよくわかる。