第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
「大っ嫌い」と言ったらいつも強気なお兄様が傷ついたような顔をした。
それがどうしようもなくツラくて悲しかった。
私がさせてしまったけど、天元のことを悪く言ったことを許せなかった。
頭ごなしに"夫して認めない"という態度のお兄様が理解できなかったから。
何も言い返さずに茫然としている様子のお兄様から目を逸らすと、居心地が悪くなってしまい、腕を引っ張り外に連れ出した。
「っ、で、出て行って…!て、天元のこと悪く言ったことを謝るまで許さないから!!」
「ほの花…っ!」
──バタンッ!!
引き戸を勢いよく閉めても、廊下の無音が煩く感じる。まだそこにお兄様はいるのだろう。
(…早く行ってよ…。私は怒ってるんだから!)
思えば長兄である泰君兄様とは口論みたいなのはしたことはない。
比較的歳の近い兄様とは口喧嘩はよくしていたけど(負けるけど)、泰君兄様は親代わりのようでもあった。
両親は健在だったが、仕事も忙しくて月に一度は産屋敷様のところに出かけていた。
両親がいない時は泰君兄様がいつも面倒を見てくれたのを幼いながらに覚えている。
泰君兄様からしたら歳の離れた妹が心配でたまらないのだろう。
でも、私ももう二十一歳になった。
自分で選択して責任を持って人生を歩んでいけるだけの大人になった。
いい機会だから兄離れ、妹離れをした方がいいと思う。
鬼のいない世界になった今、私が襲われる心配もない。
それにもう守ってもらわなくても天元がいる。
彼は私のことを大切に大切にしてくれているのだから。
今更だけど、あんなに怒鳴ったりせずに、冷静にそうやって言えば良かった。
あんな風に酷い言葉を投げつけてしまって、お兄様を傷つけてしまった。
天元に酷いことを言ったことを怒っていたのに、これでは自分も同じことをしたのだ。
閉め切った引き戸を見つめると、足早にそこに駆け寄り、少しだけ開けてみた。
しかし、そこにはもう泰君兄様の姿はなく、完全に謝る機会を逃してしまった。
これでは益々拗れて、余計に天元のことを認めてもらえないかもしれない。
そう考えると自分の浅はかさに唇を噛み締めた。