第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
俺と宗一郎さんが談笑しながら、酒を飲んでいると「失礼します。」という声が聴こえてきた。
すぐに開かれた襖にいたのはほの花より少し明るい栗色の髪をした灯里さんだった。
「おお、灯里。来たか!此処に座りなさい。」
「はい。天元さん、少しだけ失礼しますね。」
「あ、はい。…あれ、ほの花は…?」
確か灯里さんの手伝いに行ったのではなかったか。それなのに入ってきたのは灯里さんだけ。
不思議に思い首を傾げながらも、宗一郎さんの横に正座をする灯里さんを見遣る。
「私がほの花に食事の支度を頼んで、此処に少し来るように伝えてあったんだ。天元くんと三人で話したくてね。」
「ああ!なるほど!」
「ふふ。ほの花ったら『ずるい!私も行きたい!』って駄々を捏ねるものだから時間がかかってしまいましたよ。」
「あはは…目に浮かびます。」
宗一郎さんが隣に座った灯里さんに猪口を勧めながら腰を引き寄せる仲睦まじい夫婦の様子に目尻が下がった。
自分の両親のこういう場面は見たことがない。
物心ついた時は忍としての訓練を受けていたし、"家族団欒"というものはわからない。
だけど、ほの花と出会って、それは少しずつ変わってきた。まるでぬるま湯に浸かっているかのような温かくて優しいほの花。
この二人を見ていると、何でほの花がああいう性格になって、ああいう雰囲気を醸し出すのか理解できる。
ほの花とこの二人みたいになりたいと思えるほどに暖かい空気感に心が洗われるようだった。
しかし、パッとこちらを向いて真剣な顔を向けてきた灯里さんに俺は再び背筋を正した。
「そうそう、此処にきたのは、天元さんに聞きたいことがあったからなの。」
「聞きたいこと、ですか?」
「ええ。輝利哉さんから手紙で聞いたの。ほの花の体のことなんだけど…」
"ほの花の体のこと"
その言葉に俺は眉間に皺を寄せた。
そうだ。
確かに二人にはきちんとそれを話しておかないといけないだろう。
俺の左腕があるのはほの花のおかげ。
そして彼女がそのせいで体調を崩していたのもまた事実。
謝るべきだろうと思い、再び床に手をつこうとした時、灯里さんの声が部屋に凛と響いた。