第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
ほの花と肩を並べて正座をすると、声がした襖を二人で見つめる。
ゆっくりとそれが開かれると、盆を手にした宗一郎さんが笑顔でこちらを見ていた。
「ほの花は泣き止んだか?」
「…う…、ご、ごめんなさい。お父様。」
「天元君の妻になるならば、もっと毅然とした態度をしないと彼の負担になるぞ。わかったな?」
「…はい。ごめんなさい。あの、天元も…ごめんなさい。」
そう言ってほの花を叱責する宗一郎さんは恐らく俺を立ててくれたのだろう。
ほの花は俺を想って泣いてくれていた。
謝ることなどない。
それでも俺のためにそう言ってくれたのが分かると気持ちが引き締まった。結婚相手の父親が受け入れてくれたと言うことは少なくとも結婚に反対はしていないと言うこと。
兄君達の説得は必要だが、第一関門は突破したのだ。
「いや、俺は良いから。大丈夫だ。」
安心させるように背中を撫でてやるとコクンと頷き、ホッとしたように笑みを見せるほの花。
そんな彼女を見て宗一郎さんが言葉を続けた。
「さぁ、それならほの花は灯里のところに行って食事の手伝いをして来なさい。天元くんは一杯付き合ってくれないか?」
お盆の上に乗っていたのは徳利と二つの猪口。
そしてつまみが二皿。
ほの花の母である灯里さんが準備してくれていたのだろう。
「もちろんです。宗一郎さんは酒が強いと正宗達からも伺ってますよ。」
「ハハッ、あやつらくらいしか付き合ってくれないからなぁ。天元くんが酒に強ければいいのにと思っていたのだが…その口振りは強そうだね。安心したよ。」
酒を酌み交わすことを楽しみにしてくれていたのか宗一郎さんは部屋の中の卓にお盆を乗せると楽しそうに笑った。
そんな俺たちの様子にほの花もホッとした様子で「行ってくるね」と出て行くと、互いの猪口に酒をいれる。
無色透明のそれは自分の姿を鏡のように映す。
遊郭での戦いの時に左目を失ったため眼帯は手放せない。
人相は悪い方ではないと思うが、眼帯など付けていたら「この男は一体どんな奴なのだ」と思うのは無理はない。
兄君達が心配するのも何となく理解はできる。