第41章 【番外編】「娘さんを下さい‼︎」※
「泰公、よさぬか。遥々来てくれたのだ。失礼な物言いはやめるんだ。」
ほの花がまだ言い返そうと兄君に向き合った時、それを止めてくれたのは目の前にいたほの花の父である宗一郎さんだった。
「ち、父上…!しかし…!」
「目を見れば、嘘偽りなくほの花を愛してくれていることくらい分かる。これ以上、宇髄さんに失礼なことを言うならば滞在中、この屋敷から出て行くんだ。」
「え…?い、いや…俺は…!」
義理の父親になる彼に庇ってもらえたのはありがたいが流石に親子喧嘩が勃発するのも偲びない。
できれば穏便に済ませたいし、結婚も認めてもらいたい。そんな都合のいいことを考えてしまうが、兄君達の視線が緩むことはない。
しかしながら、一家の長である父親の発言に不満ながらも「承知しました。」と言い、それっきり口を噤んだ。四人に何と後味の悪いことか。
隣にいるほの花も口を尖らせたまま、泣きそうな顔をしているので背中を撫でてやると、見る見る内に目から涙がこぼれ落ちた。
「…宇髄さん、ごめんなさいね。荷物もあるだろうし、先に客間にご案内するわ。ほの花をお願いできるかしら?」
灯里さんはそう言うと立ち上がって襖を開けてくれた。確かにこうほの花が泣いていたら地獄の空気のままだろう。
俺が目の前で安易に慰めれば益々兄君達の機嫌を損ねるだろうし、機転を利かせてくれた彼女には感謝しかない。
幸いなことに両親には嫌われていないようで一安心だ。
「ありがとうございます。では、そうさせてもらいます。ほの花、立てるか?」
「…っ、う、ん…。」
差し出した手を迷いなく取ってくれたほの花の背中を支えると、宗一郎さんと兄君達に頭を下げてその場を後にする。
廊下で待ってくれていた灯里さんの後ろについて歩いていくと流石は陰陽師一族の長の屋敷。
渡り廊下のようなところを渡ると、離れが見えてきた。
「今日はあそこの部屋をお使いください。ほの花も一緒にいいかしら?」
「勿論です。」
まだ肝心の"娘さんを下さい"という台詞も言えていないのに灯里さんはちゃんと分かってくれている。
ほの花を俺に託すと部屋の手前でそのまま踵を返して戻って行った。