第39章 陽だまりの先へ(終)※
「っ、ゴホッ、ハァハァ…、」
なかなか呼吸が落ち着いてくれなくて肩で息をしている私に宇髄さんは何も言わない。
きっと私の言葉を待っているんだ。
言葉を言わない代わりに背中に温かい感触がした。上から下に、下から上に。ゆっくり撫でられるそれは私の呼吸を落ち着かせてくれる。
でも、落ち着いてしまえば何か喋らなければならない。落ち着きたいような落ち着きたくないような気持ちがごちゃごちゃに入り乱れて体が震えてしまう。
──自信を持て
その時、頭に語りかけてきた言葉は煉獄さんの言葉。
何に対しても自信を持てずに逃げてしまった私。
この一連の流れのことの次第は全て自分自身で聞いた。
それが全て一人相撲だったことはもう分かっている。
記憶のない私はそれを受け入れられたけど、私はやってしまった張本人。
どんな顔をして会えば分からなかった。
──ほの花、自信を持て
煉獄さんは言っていた。宇髄さんは私が笑った顔が好きだと言っていたと。
今の私はどんな顔をしている?
きっと後ろで私の言葉を待ってくれている。
掴まれた腕は決して強くはない。
優しく掴み、温かいそれに涙が込み上げてきた。
「っ、ふっ、ぇ…っ、てんげ、ん…ごめ、んね…」
笑いたい。笑いたいのに笑えない。
涙が邪魔をして言いたいことも言えない。
そんな私を優しく引き寄せるとふわりと後ろから大きな温もりに覆われた。
それが彼に抱きしめられているなんてことはすぐに理解できてしまうけど、そうなると益々涙が止まらない。
「…なーに謝ってんの?」
「…だっ、だって…!わ、わたし…、」
「…俺の好きな女はさ、優しくて暖かくてあのお天道様みたいな奴なんだわ。………おかえり。……俺の陽だまり。」
一瞬、空を見上げて太陽を見つめた宇髄さんはすぐに耳元に唇を寄せて真綿のように温かく優しい声でそう言ってくれる。
体を反転させられた先にあったのは陽だまりのような暖かい笑顔。
──自信を持て
もういいじゃないか。宇髄さんは受け入れてくれてる。私は手で涙を拭き取ると精一杯の笑顔を彼に向ける。
「ただいま、天元…」
煉獄さん、私、ちゃんと自分と向き合うよ。
だから見ててね。
私が心から自信を持って彼の陽だまりになれるその日まで。