第39章 陽だまりの先へ(終)※
──パチン
そうまさに音を立てて情景が弾けるようだった。
脳裏に思い浮かぶのは此処で起きた出来事。
私は此処を知ってる。
此処は大切な場所だ。
大好きな人と出会った場所。
里のみんなが亡くなって、陰陽師最期の末裔になって、途方に暮れていた時、私は彼と出会った。
食事も喉を通らなくて、毎日生きるのが億劫になるほど。
三食食べないといけないと決めた人は誰なのだ?と恨み節を言っていた。
私は知っている。
私が私であることを。
此処でどうやって過ごしたかを。
産屋敷様のお屋敷に行って、誰の継子になったの?
誰の恋人になったの?
誰が私を愛してくれたの?
誰の記憶を消したの?
「おーい?大丈夫か?何処かで座るか?」
耳に響いた声に勢いよく振り向けば、目に飛び込んできたのは思い浮かべるだけでも涙が出そうなほどに愛おしい人。
「ッ…、て、んげ…ん」
「………?……は、え…?ほの花…?」
思わず出た言葉は彼の名前。
でも、その瞳に自分の姿が映った瞬間、急に怖くなった。次に言われる言葉が。
背中にあった彼の手を振り払うと後退りをして宇髄さんから離れていく。
「…ちょ、と、…ご、ごめん、」
「お、おい、ほの花…!」
駄目だ、あまりの急展開に頭がついていかない。
宇髄さんが私に手を伸ばした瞬間、踵を返して全速力で逃げ出した。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
お呼びでないかもしれない。
もう"私"でなくともちゃんと"私"でいたのに!
違う、怖いんだ。
宇髄さんと向き合う勇気がないんだ。
記憶を取り戻した自分は。
さっきまではあんなに一緒に甘味を食べられて嬉しかったのに。
今は怖くて怖くてたまらない。
しかし、走っていく最中にどうしようもない事実も突きつけられる。
(…い、息が、つ、続かない…)
そう。ハァハァ…とすぐに乱れる息に自分の体力が極限まで落ちていることを露呈される。
足がもつれる。体も重いし、息苦しくてたまらない。
「…さ、最悪…!」
「そいつはどうだろうな。」
──ガシッ
こうなることは目に見えていた。
普通の体力であっても難なく捕まえられる実力差があると言うのに今の自分があまりに虚弱すぎて震える体に嫌気が差しそうだった。
私の腕は温かい宇髄さんの手に捕まえられた。