第39章 陽だまりの先へ(終)※
「…た、たべ、すぎた…きもちわるぃい…」
「食べてやるって言ったのに全部食うからだろ?ったく…」
卓に並べられた甘味は私の目にはまるでキラキラと輝く宝石のようにも映ってしまい、前述の通り食べてくれるという宇髄さんの申し出をド派手にお断り申し上げて、全て平らげたのはこの私。
その負債は当然ながら直ぐに訪れた。
お店を出た瞬間、私の口から漏れ出たのは冒頭の台詞。
それはそうだ。
こちとら二ヶ月間口から物を食べていなかったのだ。胃が小さくなっているのは当たり前だし、そもそも普通の食事すらまだ控えめに食べていると言うのに。
目の前に広がる素晴らしく美味しそうな甘味の数々に強欲な私は我慢することができなかった。
「…運んでやろうか?」
「だ、駄目です…今、浮遊感を味わったら吐いちゃう。消化したいのでお散歩して帰ってもいい…?」
「良いけど、今度は散歩のしすぎで疲れて明日熱出すぜ?」
「う…本当にごめんなさい…」
宇髄さんの言ってることは尤もだ。
今の私は本当にすぐに熱を出す虚弱体質の女みたいだ。少しずつ良くなっていくとは言われているがまだまだ養生が必要らしい。
それでもやっぱり消化して帰らないと吐いてしまいそうだったので宇髄さんの腕を掴んで散歩を所望してみた。
「…少しだけなら、いい?」
「お前な…、その顔すれば俺が許すと思ってんだろ?…許すけどよ。半刻もしねぇぞ?少しだけだ。」
「うん!!ありがとう!」
私の手を自分の腕に絡ませるとゆっくり歩いてくれる宇髄さんに顔を綻ばせる。
こんな一つ一つの行動にも優しさが表れていて、私の心は日に日に宇髄さんに惹かれていく。
まるで底なし沼だ。
すると、少し歩くと見えてきたお店に私は何故か目が離せなかった。
(…?何だろ、定食屋さん…?あー、駄目。今食べ物こと思い出すと気持ち悪い。)
ちょうどそのお店の前に差し掛かった頃、その店から漂う食べ物の匂いに私は立ち止まって吐き気に耐えた。
「うー……」
「おいおい、大丈夫か?一回、吐いちまうか?」
そう言うと宇髄さんは私の背中をゆっくりと撫でてくれる。
彼はよくそうやって背中をさすってくれる。
珍しいことでも何でもないのに、その瞬間、私の頭の中に何かが弾け飛んだような感覚が訪れた。