第39章 陽だまりの先へ(終)※
ほの花の顔はスッキリしていて俺が心配するような心境ではないことだけは伝わってくる。
にこやかな笑顔を引き寄せて口づけをしてやった。
「じゃあさ、前のほの花がすげぇ好きだったふたば屋って言う甘味処に連れて行ってやるよ。」
「わぁーい!ありがとう!楽しみにしてる!」
稽古後の楽しみができたところで、ぞろぞろと足音が聴こえてきたので、一つ息を吐いてほの花の頭に手を乗せた。
「んじゃ、行ってくるからよ。」
「うん、行ってらっしゃい!」
今のほの花に言われてハッとしたこともある。確かに俺は今のほの花を大切にして、気に病ませないために敢えて前のほの花の話は避けてきた。
でも、前のほの花を忘れたわけではない。
どちらもほの花でどちらも愛している。
だから今のほの花がそれを取り戻したいと思い出したのならば手伝ってやるのも俺の役目だ。
心に巣食う遠慮の鬼は粗方斬り終えたかもしれないが、一番の遠慮の鬼は昔のほの花が持っている。
俺はまだまだ引退できねぇな。
アイツが戻ってきたら任務が山積みだ。
「よしっ、テメェらまずは100本走り込みしてこい!!その後、筋力鍛錬でシゴいてやる。」
その前にまずは目の前のたるんだ鬼殺隊士を鍛えることが仕事だ。
俺はぞろぞろと入ってきた野郎どもに間髪入れずに準備運動がてら鍛錬内容を伝える。
悲鳴をあげる奴らが多いが、よく考えたらこの鍛錬内容をほの花はずっとやってきたのだ。
アイツは女だけど、なかなか根性があった。
そのおかげで今回、生き残れたと言うならばやはりコイツらが死なないために俺がやるべきことは決まっている。
「今、文句垂れた奴は二倍だぜ。これはほの花がずっとやってきた鍛錬なんだぜ?アイツができんだからよ。お前らだって出来んだろ?しっかり励め。」
まぁ、ほの花も文句は垂れていたけど、真面目なアイツは朝の鍛錬をサボることはほとんどなかった。
もうこんな鍛錬をすることは体がもたないだろう。それでも生きてさえいればそれでいいんだ。
だから俺も待っていよう。
アイツが戻ってくるその時まで。